2011/03/05

家族の中に父がいるということ

(福岡楠の会 ひきこもりの家族会 2011年3月号会報)

福岡県立大学大学院看護学研究科 四戸智昭

○父の存在がないということ
 不登校やひきこもりの課題を抱えた家族の話を伺うとき、ほとんどの家族に共通する問題がある。それは「父の存在がない」という問題である。
 ひきこもりという課題に立ち向かっているのが、残念ながら本人と母親のみという家族が多い。福岡県立大学の不登校・ひきこもりサポートセンターでは、電話相談や来所相談を受け付けているが、父親が電話をしてくるというのは、母親のそれの約半数。父親が来所するという件数は、母親のそれの十分の一という少なさである。
 課題を抱えた多くの家族では、父がいたとしても、家族の課題に前向きに取り組もうという父はとても少ない。ある父は「息子のそんな姿は見たくないから。」と言う。残念ながら、夫の方が妻よりも、現状を受け止める勇気に欠けている場合がある。
あるいは、父がいたとしても、ずっと以前から蚊帳の外に置かれてしまっていることもある。ある母は「お父さんに相談しても、文句しか言わない。」と夫婦のコミュニケーションを避け、夫を避けてしまっている。


○父親のリーダーシップということ
 不登校やひきこもりといった家族の問題は、家族の構成員全員がそれを解決しようと思わない限り、解決しない。まず父と母が、夫と妻になってコミュニケーションを取ることが必要である。場合によっては、夫婦関係の問題が子の不登校やひきこもりという問題で表面化していることもある。そうであれば、夫婦のコミュニケーションは、課題解決の第一歩になる。

 あるいは、夫の人生の課題が、そのまま子の人生の課題となり、ひきこもりという問題を助長していることもある。夫の人生の価値観を形作った夫の幼少期からの経験が、夫の人生を不自由なものにし、結果、その子の人生も不自由なものにしていることもある。
 こういった場合には、父であり夫である主が、家族の中で課題に取り組むリーダーとして登場することが何より必要である。
 テレビを観ながら、「日本の首相にリーダーシップがない。」などと嘆いている場合ではない。あなた自身があなたの家族の中で主(あるじ)となり、リーダーシップをとっているかを振り返る必要がある。ときに、現在のアフリカのリビアや、北朝鮮のようにリーダーシップを独裁と取り違える男たちもいるから注意が必要である。
 真のリーダーは、国の現状を的確に把握し、その中の最も弱い者のために立ち上がる人を言うのである。


○妻が自分の無力を認めるということ
 妻も夫の登場のためには、その工夫をする必要がある。「お父さんに相談しても、叱られるだけだから。」と夫を避けているのなら、現状は変化しない。あなたの人生のパートナーに現状を理解してもらうには、どのような工夫が必要なのかを考える必要がある。場合によっては、あなたが降参することも必要である。「我が家の課題解決には、私だけの力ではどうにもならない。やはりあなたが必要である。」という心からのメッセージを夫に伝えているだろうか。

 心からそう思って相手に伝えるメッセージを「アサーション」(断言するという意味)という。これは、脅しとは違う。「家族の課題に取り組んでくれなければ、私はあなたと離婚する。」というのが、実は、夫を動かす口実で、本気ではないとしたら、かえって夫の怒りを買ってしまう。人は、脅しで動くようなロボットではない。
現状に変化を生みたいのなら、まずは、あなたが自分の無力を認め、心から夫に協力を求める必要がある。


○家族の中でリーダーシップを活用するということ
 家族に変化を生み出すには、まず、家族の構成員全員が現実をそのまま受け止めることから一歩が始まる。(最初はむしろ夫婦だけで現実を受け止めるという作業が必要かもしれない。子は現実を見つめすぎてしまっている場合が多いから。)現状を見つめることは、大抵面白くもなく、むしろ辛い。

 そして、自分の非力さをそのまま受け止められればよい。子の問題すら解決できない自分を受け止める勇気があなたにあるだろうか。大抵の親たちは、「自分の力だけ」で何とかしようとする。しかし、かえってそのことが家族の繋がりをバラバラにしてしまっている。
 まずは、現状を受け止め、「自分の力だけ」で何とかしようとするのを止める。例会のミーティングはそのための場所である。ミーティングという場所で、あなたがあなたの家族のことを語ることで、家族を大きく変える。また、ミーティングという場所で、あなたが他の家族の様子を聴くことで、家族を大きく変える。家族ミーティングという場所は、特別な場所ではないが、あなたの家族を変える大きな力になる。ミーティングという場所は、世間体を必要としないから気軽に出席していただきたい。
もし、これまで、あなたの妻だけが課題解決のためにミーティングに出席しているのなら、今度は夫であるあなたがそのような場所に是非登場して欲しい。むしろ、そのような父であり夫のミーティングへの登場が、家族を変える。是非、あなたのリーダーシップを、一番苦しんでいるあなたの家族のために活用して欲しい。