2012/06/01

サバイルバルするひきこもりたち




福岡楠の会(ひきこもりの親の会)会報6月号エッセイ
四戸 智昭

○自殺未遂で救急搬送される人たち

 福岡県内で規模が大きいK市で、昨年の秋に自殺未遂者の救急搬送事例に関するデータの収集と分析を行った。
 10月から11月の2ヶ月間に、自殺未遂によって救急車で搬送された事例は96件に及ぶ。実に、一日に約1.6人の人が、自殺もしくは自殺未遂で救急車で搬送されていることになる。
自殺未遂で救急搬送された事例を男女別でみると、男性は全体の約3割、女性が約7割である。男性の平均年齢は51歳、一方女性の平均年齢は42歳と男性より若干若い。また、約4割の人たちは、過去に何度も自殺未遂を繰り返している事例であった。
自殺原因で比較的多かったのは、家族内問題(人間関係)で全体の25%がこれに該当していた。自殺未遂の手段で最も多いのは過量服薬によるものである。全体の約7割が精神科もしくは心療内科に通院しているので、処方薬(眠剤等)を多量に服薬して救急搬送される事例が多い。残念ながら、死亡に至る事例は、男性で約13%、女性で約9%であった。



○生き延びたサバイバー

ところで、違法薬物や処方薬、アルコール、リストカット、摂食障害(過食嘔吐)、インターネット依存、TVゲーム依存、ギャンブル依存等々、数々の依存症の問題を抱えながらも、自殺という選択をせずに生き延びた人たちをサバイバーと呼ぶ。依存症は、うつや不安と密接に関連した病気で、抑うつや不安を解消する手段として、種々の依存行動が用いられる。
何かに依存しているときは、抑うつ感や不安と向き合う必要がないので、彼らは死を選択しないために、やむなく依存という手段を用いる。それでも、「最悪の自殺という選択しなかった。これまで何とか生き延びてきたという賞賛を込めて」、彼らをサバイバー(survivor)と呼ぶのである。本来は、戦地に赴いた戦闘員が生き延びて帰ってきた場合に使う言葉である。しかし、考えてみると、戦場ではなくても、子どもや若者にとっては、とかくこの世はとても生きにくい。
学校や職場でのいじめ、親からの虐待(性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、身体的虐待)、両親の不仲、両親の精神疾患、等々、子どもにとってはまさに日々戦場という現実がある場合も多い。




○若者に多い自殺願望


この5月に内閣府が報告した「自殺対策に対する意識調査」によると、これまでに自殺をしたいと考えた事がある人は全体の23.3%に及ぶ。年代別にみると、自殺をしたいと考えている世代が一番多いのは、20歳代の28.4%、次いで40歳代の27.3%である。
性別でみると、自殺をしたいと考えているのは女性が多く27.1%、男性では19.1%であった。特に20歳代女性では自殺をしたいと考えている率が最も高く33.6%%で、前回調査(21.8%)から大幅に増えていた。なお、ストレスの原因として最も高いのは、「家庭問題」で44%に及び、次いで「勤務問題」の42.9%となっている。
ただ、これらの調査は今生きている人たちにした調査で、実際の自殺率のデータとは若干の乖離がある。毎年3万人を超える自殺者数で最も多いのは男性であり、約2万人を超える。女性は1万人を切る程度。また自殺した理由で最も多いのは「健康問題」である。しかし、先進国(経済的に豊かな国)の中では、わが国の自殺率は際立って高い。2006年の報告では世界で8番目に自殺率が高い国である。


○サバイバルするひきこもりたち


 さて、ひるがえってひきこもりや不登校の人たちを見ていると、彼らは先に述べたサバイバーだといえる。本当は、学校に行きたいが行けない。本当は、社会に出て働きたいが、家から出られない。その苦悩は想像を絶するものである。彼らの多くが抑うつ感や不安感と日々対峙している。
 その恐怖から逃れるために、昼夜逆転の生活をする。昼間起きていると、学校に行く友だちのことを思い浮かべるから辛い。また当たり前に社会人として、朝起きて就労できない状況を辛く感じる。結果的に過睡眠という依存に逃避する。
 一方、深夜になれば世の中の人たちの殆どが眠りにつく。彼らにとっては、頑張っている他者を思い浮かべる必要がなくなる自由な時間になる。それでも、じっとしているのはやはり辛いから、インターネットに興じたり、TVゲームに興じる。中には読書に興じているひきこもりもいる。
 彼らはそうやって、今日も一日生き延びるために、様々な工夫しているのである。彼らは立派なサバイバーである。安易に死を選択しない彼らの勇気を褒め称えずにはいられない。


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