2012/09/01

必要があっての共依存というアディクション


福岡楠の会9月号エッセイ
福岡県立大学大学院 四戸智昭

○生き延びるためのアディクション

アディクション(嗜癖)は、大きく分けて3つに捉えることができる。ひとつは、アルコールやニコチン、大麻や覚醒剤など、物質を体内に取り込むことがやめられなくなるアディクションである。物質を体内に取り込んで快体験を得ようとするこのアディクションは、物質アディクションと呼ばれる。
 ふたつ目は、買い物やギャンブル、万引きや放火、覗きなど、行為そのものがやめられなくアディクションである。これらは、行動やそのプロセスによって快体験を得ようとすることからプロセスアディクションと呼ばれる。
 3つ目は、人間関係の依存である。他者にとって良い人を演じて、その結果褒められれば、これも脳内では快体験として学習され、この人間関係をやめられなくなる。男性に多いのは上司のご機嫌を伺いながら、仕事にのめり込む仕事依存の人。女性であれば、子にとって良い母を演じる賢母の母などがこれに当たる。
 いずれのアディクションも、最近の脳科学では、脳内で起きている事はそう大差が無いことがわかってきた。すなわち、これらのアディクションに陥っているときには、快体験を誘発するドーパミンが脳内に放出されているというのである。


○アディクションを排除するということ


 快体験を得たいというのは、逆に言えば、快体験を得なければ不安や鬱にさいなまれてしまう生活をしているということになる。あるいは、人によっては、生育歴(被虐待体験)によって不安や鬱にさいなまれ、これを解消する手段として嗜癖が用いられる。
 もし、嗜癖によって不安や鬱が解消されなければどうなるだろうか。その解答は、わが国日本では実にシンプルな形で現れている。すなわち、自殺である。98年以降、わが国の自殺者数は3万人を超えて推移している。その内訳は、男性が2万人を超える程度、女性が1万人をきる程度である。
 人は、自殺という最終手段を取らないために、各種のアディクションにのめり込む。言わば、生き延びていくために、その人が最も取りやすいアディクションをして、今日も生きているという事になる。
 わが国では、健康増進法の施行以来、健康のために、禁煙運動が盛んになったが、タバコを吸うというアディクションの行為が社会的悪とみなされ徹底的に糾弾されると、愛煙家たちは、禁煙せざるを得ない。その結果、国内・国際線問わず、機上での喫煙が全面禁止になった頃、機上での暴力事件は逆に多くなった。
 あるいは、うつ病に処方されていた“リタリン”という覚醒作用があり、かつ依存性のある処方薬は、重度のうつ病患者にとっては良い薬であったが、市場に出回るリタリンがインターネット上で売買されるなど、不適切な行為が患者によって行われていた事から、4年ほど前にうつ病の患者には処方禁止になった。これで、目の前の問題は解消されたかに思われたが、アンダーグラウンドで売買される覚せい剤の価格は、これを契機に上昇している。



○時間を味方にして共依存をやめる
 アディクションという行為を排除するのは、一見すると単純で簡単なことのように思えるが、これが意外と難しい。
 人間関係の依存(共依存)もそうである。人(親)は、その必要があって共依存している。特に、不登校やひきこもりの課題を抱えた母や父は、その必要があって子に共依存している。この共依存は簡単に排除するのが難しい。なぜなら、前述のように、人はその必要があって共依存というアディクションをしているからである。
 子に対する良い親、子をケアしすぎる親をやめるというのは、容易なことではない。ではどうしたら、子に対する共依存というアディクションをやめることができるのか。それには、まず、本人である親が、どうして子に共依存というアディクションをする必要があるのかに気がつくことである。
 “自分から子育てを奪われたら、生き甲斐がなくなってしまう”“子のケアをやめたら、嫌な夫と嫌でも向き合わなければならなくなる”まずは、そういう現実が自分にあるのかどうか。検証することが共依存というアディクションから逃れるために必要なプロセスである。ちなみに、その検証はグループミーティングに参加する事が一番の方法である。
 共依存をやめると、一時的な抑うつにさいなまれる方もいる。しかし、それは、悪いことではなく共依存という病から回復する途上で出会う一時的な苦しみに過ぎない。多くの回復した親たちは、時間を味方にしてこの抑うつも解消している。永遠に続く苦しみはないのである。


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