2021/01/19

ひきこもりサバイバー19 —支援者のための成功体験の積み重ね?—

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。


◆◆◆

ひきこもりの人に対して最初から大きな目標(就労)ではなく、小さな目標(お手伝いな
ど)を目指して成功体験を積み重ねるべきだということが、特に強調されているように感じます。

具体的には買い物に行ってもらうとか、毎日散歩をする、支援施設に行ってみるなどです。
行動することは目に見えるので成果が出ている感じがしますが、
実のところ、この支援者にとっての成功体験は、支援されるひきこもりの人にとっては成功体験ではないことがあります。

支援者「外に出られるようになった!」
ひきこもりの人「外に出るように、社会的圧力をかけられて負けた。これからも、こういう我慢を続けないといけないのか・・・。」

こうやって負けが続くと、自分で考え、行動する力ががりがりと削られ、気づいたときには「やりたいこと」を「やる」ことができなくなってしまうのは当然の流れです。

でもみんな小さな成功体験が大切だと言っているし、成功者も多い。
そんな声が聞こえてきそうです。
そうです。
小さな成功体験の積み重ねは幸せの絶対条件です。
それは間違いありません。

ただし、それには行動する人が「目標」を立てて、それを「達成した」ときにしか幸福感が得られない。という当たり前のことを第一に考えなければいけないということです。

支援者が10満足するということは、ひきこもりの人の満足度は4か2なのではないでし
ょうか?

ゲームさえしていれば最高に幸せな人を、外に出しても達成感も幸福感もありません。

本当に大好きなことを仕事にしている人にとって、週に2日も休めなどというのはとんで
もない不幸です。

外に出ても働かない、働いてもすぐ辞めてしまう。
そこには小さな目に見える成果の積み重ねと、ひきこもりの人の幸福感のズレが影響して
いるのかもしれません。





こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)



<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。