福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。
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あなたは休みの日何をしていますか?
仕事中に手を休めることができますか?
今回は普通の人は意識せずできていてひきこもりの人には できていない緩急についてのお話です。
動いて休む。 当たり前のことですよね。
会社にいる間、雑談の一つ、コーヒーの一杯も飲む時間さえ節約して机から仕事から離れない人はいないと思います。
働く中にも集中する部分とゆっくりする部分を使い分けているわけです。
それに対してひきこもりの人はこれが苦手です。
集中していて疲れてきても 「そろそろゆっくりしようか」 ということを自分に許し実行することに罪悪感を感じます。
また頑張りすぎている自分にもイライラしています。
たとえるならば
160キロの球を投げるけどストレートしか投げないピッチャー。
パスを出さずにボールを持ち続けるサッカー選手。
一人でドリブルしてシュートしてリバウンドとるバスケットボール選手。
レシーブ、トス、スパイクを一人でやっちゃうバレーボール選手。
野球では球種がないので不利になり、サッカーやバスケットボールでは運動量がすごいのにそれをずっと一人でやるのは自殺行為です。
最後のバレーボールに至っては反則です。
つまりひきこもりの人が疲れてしまうのはパスを出すことを不真面目と思ってしまうからなのです。
仕事中はずっと机に張り付いて、あるいはラインに張り付いていないとと考えてしまいます。
今まで働けてないのだから頑張らないと「ダメだ」という気持ちが強いのです。
親御さんならひきこもりの人が学校に行っていたころとても真面目だったことをご存じだと思います。
不登校になる前は無遅刻無欠席だったというように。
ひきこもりの人はゆっくり休むことが苦手です。
根が真面目なので休むにしても「頑張って休んで」しまいます。
もちろんそのあと「頑張って働いて」しまいます。
いつも全集中です。
ちなみにこの「全集中」は「鬼滅の刃」という作品の身体能力をあげる 特殊な呼吸法を常に続けることを指しています。
肺を酷使して呼吸し、体温を39度近くまであげることで人間離れした身体能力を得ます。
それを超えると体にあざが浮かび上がり、体がボロボロになっても動き続けることができます。
その先に行きつくのは・・・
ひきこもりの人は「全集中の呼吸」をやめるタイミングを体験する必要があります。
自分がボロボロに傷ついていることに気づいて「全集中」をやめても大丈夫と自分で自分を抱きしめて教えてあげましょう。
無理をしても周りを心配させるだけです。
周りの人はひきこもりの人の頑張っている部分ではなく、
「頑張っていない=リラックスしている」
部分に目を向けましょう。
それこそがひきこもりの人の最も苦手な部分で伸びしろなのです。
もっともそれを見守っている親御さんの方がリラックスすることが悪いことだと頑張りすぎていることも多いです。
ひきこもりの人をリラックスさせる第一歩は親が本気で
「なんとかなるなる」
「ケセラセラ なるようになる」
の心を心掛けることかもしれません。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |