福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『小さな成功の極意』というお話。
◆◆◆
「いつまでも家から出なくて本人はつらくないんでしょうか?」
「アルバイトでもすればお金も入るし、視野も広がるのに」
「このまま年を取れば就職が難しくなるのはわかっているだろうに」
「車の免許だけでも取れば変わるのに」
ひきこもりの人の親の悩みは切実です。
言葉は違うけれどそれをぐつぐつ煮詰めていくと
「たった一つの想い」
だけが残ります。
「なんでみんながやれていることをやれないんだろう?」
その疑問を解消するために親は頭をひねり、体を動かします。
しかし何をどうやればいいのかがわからない。
そこで「恥ずかしい」「情けない」「何も考えていない」の三セットの言葉が頭をよぎります。
そして一番、ひきこもりの人にとってダメージの少ない「何も考えていない」を選択します。
親たるもの、その責任と愛情において子供のことを謙遜ではなく「恥ずかしい子」「情けない子」とは言えるものではありません。
すごく信頼している相談機関では口にできるかもしれませんが、家で口にすることはとても難しいです。
ひきこもっている人に「ひきこもっていて恥ずかしくないの?」と言うことは嫌いな人に直接「私はあなたのことが嫌いです」ということと同じです。
反発しか招きません。
そしてその激しい経験をしているからこそ、「何を考えているんだろう」で心が言葉を止めてしまうのではないでしょうか?
もし「うちの子はいったい何を考えているのか?」と迷ったら
「自分は子供を傷つけること、傷ついた子供が暴れたり大声を出すことを怖がっているのかもしれない。すごくストレスを感じているんだ」
と思って気分転換に健康ランドなどに行ってお湯につかってみるといいかもしれません。
そうすれば考えなしでひきこもり続けるなんてできるわけがない。いろいろ考えすぎてあの子も怖がっているんだと気づく余裕もできるはずです。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |
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