福岡県立大学 四戸智昭
○若いひきこもりに効く薬
できることなら、誰もが平穏で幸せな生活を送りたいと願う。現代の脳科学の仮説に基づくと、人がリラックスしているときに脳内に放出されるホルモンは、セロトニンと呼ばれる。温泉につかったり、マッサージを受けたり、あるいは座禅や写経をして精神統一しているときにもこのセロトニンが脳内に放出されていると言われている。
一方、このセロトニン仮説に基づくと、脳内にセロトニン量が不足している状態が「うつ状態」である。何だか、悲しい、朝起きるといつも憂鬱だという症状に対しては、現代の精神医学では、今のところ脳内のセロトニン量が増加する薬(SSRIと呼ばれる種類:複数種の薬剤がある)が処方される。
新潟でひきこもりの外来治療をしている中垣内正和氏によると、若いひきこもりの当事者で、「うつ状態」の患者にはこのSSRIの処方がとても良く効くという。具体的には、SSRIで「レクサプロ」と呼ばれる薬剤が若いひきこもりの患者には良く効くのだという。
ただ、現代の精神医学では、「うつ病」は未だ科学的に完全に解明されている病気ではない。脳のどの部位に、どのように異常が起っているのかはわかっていない。臨床研究の途上でたまたま出てきたSSRIという薬がどうやら「うつ病」に効くようだというレベルであることは事実である。だから、薬が万能ということではない。
○不安と怒りとノルアドレナリン
さて、リラックスした状態の時に脳内に放出されるホルモンに対して、不安や怒りを感じた時に放出されるホルモンは、「ノルアドレナリン」と呼ばれる。
多くの人は、できることなら不安や怒りは感じたくない感情だが、これは人間の防衛本能と関係しているホルモンとも呼ばれる。古代、人間は狩猟時代を生き抜いてきた時代があった。夜になると、どんな野獣が襲ってくるかも分からない。襲ってきた時には、直ぐに戦闘態勢に入らなければならない。そのために、ノルアドレナリンが放出される。
つまり、不安や怒りにともなって脳内に放出されるノルアドレナリンは、自分自身の生命と安全を守るために必要なホルモンなのである。
また、ノルアドレナリンは、「やる気」や「気力」にも関連したホルモンとも言われる。同じくうつ病患者の中には、「何もやる気が起きない。」という症状を呈する人もいる。この場合、脳内のセロトニン量の他に、ノルアドレナリン量も不足していると考えられていて、その場合にはSNRI(セロトニンとノルアドレナリンに作用する種類の薬)と呼ばれる種類の抗うつ剤が処方される。
○不安と怒りからその原因を探り目標を立てる
うつ病の発生モデルに学ぶと、不安や怒りを感じた時に放出される「ノルアドレナリン」も私たちが生きていく上で重要なホルモンだということがお解りいただけるだろう。
ところで、前回の畠中雅子氏の講演「ひきこもりのライフプラン」を聴いて、不安や怒りを感じたという当事者の親たちがいたが、この不安や怒りには大きな意味があると思う。畠中氏は、ファイナンシャルプランナーの立場から、親亡き後の子の経済的サバイバル方法について語られた。
聴衆の中には、「そんな財産、私にはない。」「そうは言っても、具体的にどうすればいいか不安。」と感じられた方も多かったのでないだろうか。つまり、畠中氏のメッセージが皆さんのノルアドレナリンを賦活させて不安や怒りを誘発させたことになる。
しかし、先のノルアドレナリンの説明を思い出していただきたい。不安や怒りは皆さんの「やる気」や「気力」を喚起する。畠中氏のアドバイス通り完璧なまでの家計プランを立てる事が無理でも、自分なりの家計プランを立てることは可能なのではないだろうか。
ひきこもりという課題を解決するために、小さな目標でも構わないから、この1ヶ月に出来る具体的な目標を立てて実践すること。そうやって時間が経過していく内に、皆さんの課題は確実に解決に近づいていく。
不安や怒りを感じた時は、あなたが変わるためのチャンスである。自分の不安や怒りの原因が何なのか?どうすればその不安や怒りを軽減できるのか?鏡を見つめて自問自答すると、その先にはあなたの魂の成長が待っている。
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