福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。
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ひきこもり期間というものはつらいものです。
そして親や友達の慰めや励ましの言葉がことごとく自分を責め立る言葉に聞こえます。
なぜでしょうか?
それはひきこもりの人自身が周りの誰よりも「自分が悪いことをしている」とわかっているからです。
ひきこもりの人が
「自分は今みんなとは違ってとても悪いことをしている。だから怒られるに違いない。社会にかかわるように責められるに違いない」
と怖がって震えているときにまるでそれが伝わったかのように周りの人が学校への登校をはじめとした社会へのかかわりを持つように提案してきます。
普通の感覚では当たり前なのですがひきこもりの人は
「思った通りに怒られた」
「学校に行くように責められた」
「こうやっていることはとても悪いことなんだ」
「それをやっている自分は悪い人間で社会から排除されるのが当然な価値のない人間なんだ」
とまで思い悩んでしまいます。
社会的に言えば「犯罪者」になったような感覚です。
その後に何をするにも「前科者」というレッテルは重くのしかかってきます。
悪いことをした犯罪者なのに「自分がやりたいこと」を考えるなんて贅沢だ。
前科者の自分が社会に受け入れられるわけがない。
そんな真面目な思いが
「ひきこもり続ける以外の道」
を見いだせない本当の原因かもしれません。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |