2020/06/21

ひきこもりサバイバー8 —昼夜逆転のための努力—

 福岡県立大学で教員をしている四戸智昭です。
 ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。今回は不登校やひきこもりの涙ぐましい“昼夜逆転生活”についてです。


◆◆◆
ひきこもりと言えば「昼夜逆転生活」が問題とされることが少なくありません。
「夜遅くまでずーっとゲームをして起きているせいで、朝起きられなくて学校に行けない」
という状態のことです。
ですから、「ゲームなんかするから、朝起きられない。だから早く寝て、昼夜逆転を解消しなさい」と言う人もいます。

これは一見まっとうな意見なようですが、実はこの問題の捉え方自体が昼夜逆転のように、頓珍漢だと思っています。

 少なくともひきこもりであった私にとっては、驚天動地の問題のすり替えが起こっています。
ひきこもりが「昼夜逆転生活」をするのは「学校に行きたくない」からです。
不登校、ひきこもりは
“明日、学校に行かないようにするために、夜遅くまでゲームをして朝起きないように調整している”のです。

 理由は、“寝たふり”では親や教師に押し切られるからです。
 これは経験談ですが、寝たふりだとどうしても、無理やり布団から引きずりだされた場合、残念ながら、大丈夫なように体が動いてしまいます。
そして親たちは、やはり子どもを熟知しているので、その反応で大丈夫とみて制服を着せ、車に押し込んで学校の門の前に捨てて帰るようなことをします(実話)。
しかし、本当に体が眠っていると動かされても対応できずにケガをします。
親や教師は見たことのない、ぐねっとした感じにびっくりして無理やり動かすことをやめます。

 こうして不登校やひきこもりは
「学校に行かないですますために、朝起きられない状態を作るしかない」
と努力を始めることになります。

 そもそも本当に夜遅くまでやるほど楽しいゲームをやっていたら、朝眠くても学校に行きます。なぜなら、同じ趣味、同じ楽しみを持った人とその話をすることは人生を輝かせる喜びだからです。退屈な授業など苦しみと思わないほどに、それは価値ある時間なのです。

 それだけの喜びが今の学校にある人はいいでしょう。しかし、不登校やひきこもりの人のように、学校に喜びを見いだせない人もいる。それはむしろ当たり前のことではないでしょうか。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。