福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、ひきこもりの家族会で体験談を話した後に、親孝行したお話です。
◆◆◆
福岡の楠の会さんにひきこもり体験者として話をして欲しいと、呼んでもらいました。
ちゃんと交通費と謝礼をいただき、お昼までごちそうになりました。
ありがたいことです。
きっかけは、私の新聞記事でそれを読んだ当事者の家族の方が「この人の話を聞いてみたい」と言ってくれたようです。
予定では二時間半のうち一時間半は私が体験を振り返って今思うことを語り、
残り一時間で来てくださった方たちと質疑応答をやるというものでしたが、
実際にやってみると、私が話しっぱなしという形になりました。
最後の十数分で、駆け足の質疑応答をやりましたが、その質問のやり取りは、私にとって印象深く、改めて私の気づけていなかったことを気づかせてもらえるきっかけになるものばかりでした。
私はその場で答えた後に、家で考え込んで数か月後あるいは数年後に「あっ!」と気づくタイプなので、思いついたら、それは別の項に譲ります。
家に帰ると「ガスコンロの火が消えて危ない、まともに料理できないどうしよう、困ったわぁ(ちらっ、ちらっ)」という母親の視線が・・・。
気にしないようにしようと思ったのですが粘り強く遠回しな催促に、
「ガスコンロ代、いくら?」と声をかけると「二万円くらいのでいい」とのこと。
二万円。
銀行行かないと。
こうして私の講演料はガスコンロになりました。
下手に使うより、親孝行できてよかったとの評価をいただき、
そんなものか、そういえばそうだなぁと納得。
雪の日の講演料は溶けずに役に立つガスコンロとして残りました。
めでたし、めでたし。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |