福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー（生還者）の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、前回に引き続き、ひきこもりの家族会でのお話です。「自分に優しく、大切にしてあげること」「自分ができる小さなことを無理せずにやること」「比べるなら大切なものに気づけなかった昔の自分」。こだまさんの優しさに触れるエッセイです。
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福岡の楠の会にひきこもり脱出者として招いていただきました。
私が少ししゃべって質疑応答、ひきこもり当事者であった私と、子供さんと話せない親御さんが「ここがわからない」「ここをわかってほしい」というやり取りをする予定でした。
その予定だったのですが、最初に私の話を入れたのが運の尽き。
開催時間二時間半のうち、二時間私がしゃべりっぱなしという事態に陥りました。
今までは嘉穂鞍手保健所でひきこもり家族相談会に参加していたので、“ひきこもりレアキャラ”として、時間がきっちりしているイベントでは短い時間だけしゃべる形だったので、これまでの講演では、プリントとか用意して時間超えないようにやってきました。
ときにはあれもこれも伝えたいとA4用紙で２０枚ものプリントをコピーしてもらったこともありました。
しかし、今回は体験から学んだこと、考えたことを自由に話してほしい。
データや統計ではない生の声を聴いてお互いに理解が生まれればとのことだったので、他の人が話しにくいだろうと思うような、
「私のひきこもり生活の基礎の基礎」
「ひきこもりの願いは家内安全」
「ひきこもりという自殺回避の意味」
の３つだけに絞って話をしようとしました。
したのですが――
話し終わっても質疑応答に入らない！
何回か時計を見ましたがストップがかからない。
そんなわけで、必死に頭を絞り、参加者の顔を見ながら
「これは他では話せないんですけど、せっかく雪の中来てくれたので」と「仕事なんか全然する気はなかったんで、できるだけ働かないように無理難題を言っていたらそれでＯＫと言われ、引くに引けなくなった」話や
「いきなりお金が入ってくようになると逆に使えなくなって、盗みを働くようなお金への執着が生まれて捕まるところだった」などという話から
伝説の魔法騎士鳳凰寺風先生の「私は私が大切ですわ」のおかげで自殺せずに済んだ。
というトンデモ話までありとあらゆる本音を吐いてしまいました。
本音の本音を吐いてしまい、すべて言の葉を吐き出すと話すことがなくなり、それでもストップがかからないので、
「何かないかな」と考えていると心の本質というか、小さな光る珠の上に黒い葉っぱのようなものがいっぱい覆いかぶさっているようなイメージがわきました。
本音の本音をびくびくしながらしゃべることで、黒い葉っぱが一枚一枚めくれていき、その一番底にある小さな自己に気が付くといったところでしょうか？
そしてそれが「このことを言葉にして伝えてよ」と言ってきたので、
「もう駄目だと思っても、駄目だということを言葉にしていくと、いつかはそれがなくなって本当に大切な何かが見つかる。
こんなに小さい玉かもしれないけれど、大切なものでその中にはたぶんもっとすごい感動がある。満足できなくなったら、さらに言葉にして皮をめくっていけばもっと小さくて大切なものが見つかるような気が、今しました。」
と話してしまいました。
だから
「自分に優しく、大切にしてあげること」
「自分ができる小さなことを無理せずにやること」
「比べるなら大切なものに気づけなかった昔の自分」
というまとめになりました。
私の感覚ではもう少し違う感じなのですが、現時点では人に伝える以前に「この感覚はすごいな」という感動しかないのでそうなりました。
声に出すことの大切さ、しゃべるのがきついことをしゃべる意味がわかった貴重な一日でした。
これは実は超直観タイプなので、その説明のために言葉を駆使すると、
分析タイプと思われる私の根っこの感覚です。
こだまこうじ （元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。）
＜プロフィール＞ 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は９か月でクビ。４年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |