2025/02/28

—ひきこもりサバイバー41 -自分が死んだらひきこもりの子どもがどうなるか心配なのは-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

「私たちも歳でいつまでも面倒を見れるわけじゃないし」

 という声はとても切実に思えます。

 しかし子供の心配し続けるというのが親の親たるゆえんであることを考えるとその心配は親としての特権を強く行使できる状況にいるという贅沢にも思えます。

 普通に働いている子供だっていつ不幸に見舞われるかわかりません。

 子供の未来をきっちり予測することなどできることではありません。

 まして自分が死んだ後の未来まではとても無理です。

 予測できるならそれまでにちゃんと準備は完了しているはずです。

 それができていないのだから未来予測はあまり意味がありません。

 ちなみに今は大手企業のサラリーマンが一年後には失業しているなんてことも結構ありますし、最悪モラハラの餌食になって自殺してしまうこともあります。

 普通に家を出て働いている子供たちについても親は心配しているのです。

 会社ではうまくやっているだろうか?

 悪い遊びに誘われてはまって仕事をおろそかにしていないだろうか?

 そろそろ結婚しなくて大丈夫だろうか?

 相手はちゃんとした人だろうか?

 貯金はしないと家を建てるとき大変だけど毎月積み立てしてるだろうか?

 そろそろ子供をつくっておかないと出産が大変なのに大丈夫だろうか?

 ちゃんと子供のために進学資金は準備できているだろうか?

 などなど心配は尽きることがありません。

 自分たちがそういうことを親に言われたときは「いちいちうるさい」と 思っていたはずなのに親になったら手のひら返しです。

 ただこれは親の特権であり、子供を持った時に発動する本能で自然の摂理です。

 友達みたいな親子でも親は内心では子供を心配する特権を行使しています。

 「この子の人生だし何とかするでしょ」 と言いながらちゃんと自分で生命保険をかけて、ついでに貯金も残して死ぬ準備をしているのが日本の親です。

 「ずっと働かないでひきこもっているから」と心配している親は本質的には普通です。

 立派に親のつとめを果たし、親としてちゃんと心配しています。

 死んだ後のことも働いている子供の親以上に考え、準備できているはずです。

 あとは子供を心配する特権を行使しすぎないように気を付ければ親として完璧です。

 もっとも完ぺきではないのが人間のいいところで真剣にそれを満喫しているあなたは心配をやめることができないでしょう。

 ただひきこもりの親御さんに子供を心配するのは親として普通のことだと いうことだけは頭の真ん中においておいてほしいと思います。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/02/21

—ひきこもりサバイバー40 -ひきこもりの人をサポートする人は-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

働くというのは「傍(はた)を楽にする」ことだという説があります。

ひきこもりの人をサポートしているあなたは楽をしていますか?

 当然、していないと思います。

 だってひきこもりの人を助けてあげられないのですから・・・

 ひきこもりの人に接すると普通の社会人の方は価値観の違いに 混乱し、立ちすくんでしまいます。

 怒りや不安、無力感に苛立ち、そして恐怖を感じます。

 「あのときもっと○○○○していれば」 そんな考えにとらわれ、どんどんつらくなっていきます。

 ひきこもりの人はサポートの人が当初想定していた範囲を圧倒的に外れてくるので対応に追われて疲れまてしまいます。

 「ちゃんと頑張って勉強したとおりに対応しているのに成果が出ない」 ことほどつらいことはありません。

 しかしこれは成果を「ひきこもりの人を社会復帰させる」というところに おいているがゆえに起こる疲れです。

 単純に「ひきこもり文化圏」と「会社的文化圏」の異文化交流だ!と考えればこの交流から何を得られるのかが焦点になって面白がることができます。

 異文化交流なので無理にこちらに従わせるのではなく、またこちらが従うのではなく、違いを話しあい、 お互いに認め合う。

 その先にどちらも疲れない道があるように思えます。

 ひきこもりの人から見たらあなたも傍(はた)=周りの人です。

 あるあなたがいろいろ抱え込んで疲れていたらひきこもりの人は今の自分を 肯定して先に進むより、否定して座り込むでしょう。

 周りも楽、自分も楽。 ウィンウインの関係が本当の働くです。

 私個人としてはサポーターの人にはこの交流を面白がり、二つの違う文化圏の中から新しい発見や交流の仕方を学んで新しいスタイルの社会を生み出す楽しみを経験してほしいと思っています。

昭和時代はバスに乗車拒否されていた車椅子の人がバスに乗れるようになったように、

年老いた親を人に預けて働くなんて人間じゃないと全否定していた社会がやや改善されたように、

社会制度は時代に合わせて変わっていくべきだと思います。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/02/14

—ひきこもりサバイバー39 -ひきこもりの人に本当に必要なサポートとは?-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆


「ひきこもっている人がどんな支援を求めているのか知りたい!」

 という声は困惑とともに発せられます。

 それはそれを発する人がきちんと人はそれぞれ違うことを理解しているからでしょう。

 だから迷い悩み頭を抱えるわけです。

 私としてもこんな場合はこうした方がいいのでは? というレベルでしか話はできません。 

 その根っこにあるのは何かと考えているとふと思考にひっかかったことがありました。

 それは「ひきこもりの人は真面目だ」ということです。

 私ですら 「いろんなことを真面目に考えすぎず、気楽に。きついときは休むように」と注意されまくるくらいです。

 ひきこもっている人はもっと真面目です。

 簡単に言えば「自分が好きなように遊ぶ」ことに罪悪感を覚えてしまいます。

 「気晴らしにどこかに行こう」 と誘われても心のどこかで 「何もしていない自分が遊ばせてもらうなんていけないことだ」 と思ってしまうわけです。

 つまりびっくりするくらい好き勝手に遊ぶことを許して真面目に ひきこもり続けていることを不真面目に遊ぶことで中和することが 必要なように思えます。

「仕事が片付いたらパーッとお祝いをやろう」 という考え方を 「パーッと遊んでから仕事にとりかかろう」 に変えると 「今働いてないから心配」が「今めちゃくちゃ遊んでるから大丈夫」に 変わるのではないでしょうか? 

 結局は仕事が片付いてパーッとお祝いをやったらそのお祝いのパワーが 次の仕事への活力になります。

 仕事→遊び→仕事→遊び→仕事のサイクルの遊びからスタートするわけです。

 昔も今も 「真面目な人は不真面目に不真面目な人は真面目に生きればちょうどよくなる」と言います。

 その意味では昔はやんちゃしてた人が大人になって真面目に働くようになることも昔から真面目一辺倒の人がひきこもってしまうのも当然なのかもしれません。

 ひきこもりの人へのサポートとはその真面目過ぎる思考と頑なな罪悪感をほぐしていくことにつきるのではないでしょうか?





こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/02/07

—ひきこもりサバイバー38 -ひきこもりは究極の自己管理術-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

あなたは週に一日は休みがあるでしょうか?

 月に一日は休みがあるでしょうか?

 無くてもやっていけるでしょうか?

 過労で疲れた体に引っ張られて心を病んで自殺しないでしょうか?

 大丈夫な人は超人です。

 大丈夫でない人はとても真面目な人です。

 自殺してしまう人は助けてというと周りに迷惑がかかると思う優しい人です。

 ひきこもって命を守る人はとても心に素直な人です。

 しかもそれを何年も続けることができている人は極めて優れた自己管理能力のある人です。

 外に出て働くことが正しいという考え方が好きで体質にあっている人が毎日会社に行くことに苦痛を覚えないということならば別です。

 自分がよいと思う分野を毎日続けるのは当たり前だと言え実行している人はひきこもりの人と同じ立場なのでその大変さがわかるでしょう。

 しかし会社に行きながら休みを待ち望んでいる人はひきこもりの人に対して持続能力で負けています。

 自分が選んだ道を続ける力で負けています。

 コロナ禍でお家時間の過ごし方に困難を覚える社会があります。

 「苦手なことをやり続けること」は大変です。

 お家時間に苦戦した人は同じ苦労を、いや毎日ひきこもりを継続できている人たちはそれ以上の苦労を「お外時間の過ごし方」に感じることを考えてもらえれば幸いです。

 ひきこもりの人には休みなどないのですから。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。