福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。
◆◆◆
「私たちも歳でいつまでも面倒を見れるわけじゃないし」
という声はとても切実に思えます。
しかし子供の心配し続けるというのが親の親たるゆえんであることを考えるとその心配は親としての特権を強く行使できる状況にいるという贅沢にも思えます。
普通に働いている子供だっていつ不幸に見舞われるかわかりません。
子供の未来をきっちり予測することなどできることではありません。
まして自分が死んだ後の未来まではとても無理です。
予測できるならそれまでにちゃんと準備は完了しているはずです。
それができていないのだから未来予測はあまり意味がありません。
ちなみに今は大手企業のサラリーマンが一年後には失業しているなんてことも結構ありますし、最悪モラハラの餌食になって自殺してしまうこともあります。
普通に家を出て働いている子供たちについても親は心配しているのです。
会社ではうまくやっているだろうか?
悪い遊びに誘われてはまって仕事をおろそかにしていないだろうか?
そろそろ結婚しなくて大丈夫だろうか?
相手はちゃんとした人だろうか?
貯金はしないと家を建てるとき大変だけど毎月積み立てしてるだろうか?
そろそろ子供をつくっておかないと出産が大変なのに大丈夫だろうか?
ちゃんと子供のために進学資金は準備できているだろうか?
などなど心配は尽きることがありません。
自分たちがそういうことを親に言われたときは「いちいちうるさい」と 思っていたはずなのに親になったら手のひら返しです。
ただこれは親の特権であり、子供を持った時に発動する本能で自然の摂理です。
友達みたいな親子でも親は内心では子供を心配する特権を行使しています。
「この子の人生だし何とかするでしょ」 と言いながらちゃんと自分で生命保険をかけて、ついでに貯金も残して死ぬ準備をしているのが日本の親です。
「ずっと働かないでひきこもっているから」と心配している親は本質的には普通です。
立派に親のつとめを果たし、親としてちゃんと心配しています。
死んだ後のことも働いている子供の親以上に考え、準備できているはずです。
あとは子供を心配する特権を行使しすぎないように気を付ければ親として完璧です。
もっとも完ぺきではないのが人間のいいところで真剣にそれを満喫しているあなたは心配をやめることができないでしょう。
ただひきこもりの親御さんに子供を心配するのは親として普通のことだと いうことだけは頭の真ん中においておいてほしいと思います。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |