2025/11/28

—ひきこもりサバイバー80 -ゲームをしなくなったひきこもり-

      福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

仕事から帰ったら毎日ゲームをやって睡眠時間を削っていた私ですが仕事を辞めてからゲームどころかテレビをつけることさえ珍しくなりました。

私が「リフレッシュ」と「休養」は違うと考えて休むことに集中していたからかもしれません。

実際に無理せず、小さな目標をただ達成していくことに集中していました。

朝日を浴びるための五分間の散歩、朝の食事をちゃんと食べること、公園へ行くこと、フィットボクシング2でちょっと体を動かすこと、そして雇用保険受給認定日にはハローワークに行くこと、睡眠時間を記録するなどということもやっていました。

しかしそれをやっても時間はいっぱいあったし、休みになったら見ようと思っていたアニメややろうと思っていたゲームもあったのです。

ところがやる気になれない。

それが心の疲れなのかもしれません。

「追い詰められた主人公が奇跡を起こす」

のと逆に追い詰められることがなくなった私は持っていた「ゲームを起動する」力を失ってしまったようです。

それがよいことなのか、悪いことなのか。

そんなことを考えています。


















こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

—ひきこもりサバイバー -刺殺失敗という希望-

 

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

半年くらい前に「76歳の父親が、52歳の息子を包丁で刺してたものの、殴り返されて、殺害に失敗する」という事件がありました。

数年前、元農水省事務次官の父親(72)がひきこもりの息子(44)を殺害したのとは対照的な事件です。

このニュースを見たとき、私は「やっぱりふつうにやったら体力的に70代の父親に息子が殺されるのはおかしいんだ」と納得する前に、「次は自分の番かもしれない」と震えあがりました。

もしそうなったら「抵抗せずに殺されるべきか」、それとも「抵抗して親を子殺しにしない道を選ぶべきか」とかいうことは、頭に浮かびませんでした。

それは、少しでも外に出られていて、ちょっとでも仕事をしているときに考えられることで、今のように外にも出られず、仕事もしていないとただただ「不安」になるようです。

今の状態で、そこまで考えると「危ない」と心がブレーキを踏みます。

なので、ブログに書こうとしても書けません。

書けないので抱え込んで、さらに不安になると言う「負のループ」にはまります。

今、ブログを書いているのは、11月21日に社協の「笑顔の集い」に参加してきたからです。

ひきこもりな私が、ひきこもり家族の親御さんの話を聞かせてもらい、ひきこもりな視点からアドバイスというか、気づいたことを話すという場所です。

そこでこの事件を見て不安だったということを冊子にしてもらいました。

冊子にしてもらうと気持ちが楽になると言うか、これ言ってもいいんだという気になりました。

半年前に「めちゃくちゃ怖いだけ」で送ったメールが、いろいろあって、「親子でいろいろズレてたけど、そのおかげで二人とも生き延びれた。よかったね」という形にまとまっていました。

それを読むと「これって希望だったんだぁ」と気づきました。

今までは「親がひきこもっていた子供を刺し殺す」か「ひきこもっていた子供が親を刺し殺す」かの二者択一だったのですが、今回の「失敗」で「両方生き残る」という第三の道が示されました。

これは、よく考えれば当たり前のことですが、「元農水省事務次官事件」から見ている人には新しい道です。

少なくとも「親として、息子を殺して」とか思ったときに、少しでも「でも失敗したら恥ずかしいし、大変だぞ」と思えるのは大きな恩恵です。

子供としても「『殺さないと殺される』わけじゃないんだ」と思えば、先に殺さないといけないという気持ちが少しは和らぎます。

ひきこもりの親としての「手本」がない以上、目につく情報の中で、信頼がおけるニュースに判断基準を置くのは当たり前のことです。

追いつめられて、どうしようもなくなったとき、ふと「親の責任で」とか、「殺される前に」と思ったとき、私たちは過去にニュースで見た印象的な事件を頭に思い浮かべていることが多いです。

少なくともそこから強い影響を受けています。

そしてそこには「成功」事例がたくさんありますが、「失敗」事例は少ないです。

「成功」していないと事件にならないので、あたりまえなのですが、自分が同じ立場だとそんな当たり前のことに気づけなかったりします。

私は、そこに今回の「失敗」が加わってくれたのが、とてもありがたいと思っています。

おかげで、「でも失敗したら嫌だし」と思えるからです。

今回の事件も、案外「70代の親がひきこもりの息子を刺し殺した」という「成功」事例を知ったので、「やれる気」になってしまった結果のような気がします。













こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/11/21

—ひきこもりサバイバー79 -ひきこもりの一日とは-

     福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

朝、人がいない6時ぐらいに公園へ散歩します。

家に帰ってしばらくぼんやりします。

7時ぐらいに薄くなった髪に育毛剤をぬります。

その後、きれいに手を洗って育毛剤を流します。

それから仏壇にお茶を上げて、線香を立てて鐘を鳴らし、ご先祖様にご挨拶です。

母の用意してくれた朝食を風呂掃除を終えた父と一緒に食べて、母が「これ体にいいらしいから」と購入してくれているその時期のお気に入りの健康になる黒酢とか卵黄とか朝鮮人参とかのカプセルを飲みます。

九時ごろにはちょっと心が落ち着くというマインドフルネス瞑想もどきをやります。(このあたり健康食品を愛好する母の子だなぁと思いますが)

十時をすぎるとフィットボクシング2の普通をやらないとと思います。

十一時ごろになると焦りだしてフィットボクシング2の「ふつう」をやります。

それが終わると昼食の時間なのでパンか、カップ麺を食べます。

午後一時ごろになると「あー今日も半分すぎた」と思います。

やることがないのでパチンコにでも行こうかと思うのはデフォルトです。

しかし午後四時までに帰らないと激おこされるので考えどころです。

考えていろいろしているうち(どうしようと本を読む、ユーチューブを見る、仕事しないとと頭を抱える、パチンコいってぼろ負けしたとき、勝ったときを夢想する)に午後二時半を過ぎると「今さら自転車で行ってもついてすぐに帰ってこないとダメだ」と思って諦めます。

元気がよく頭の働きがいいときは即決でいろいろ「しない」ときもあります。

「する」のではなく、「やらない」でいられるのです。

ともあれ4時になるとご飯なので一日が終わります。

夜はお風呂に入って6時ごろには布団の中です。

こうしてどんどん時間が過ぎていきます。

私は休めていますか?

















こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/11/14

—ひきこもりサバイバー78 -ひきこもりとTRPGリプレイ-

    福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

「心を支えてくれる優しい本を読もう」

私がそう思ったのは人に話をすると

「ぼーっとしてないで先のことを考えた方がいい」

あるいは

「今は休むことを第一に考えて」

のどちらかに押し込められてしまう気がしたからです。

どちらも正しく正しいから危ういなぁと感じています。

天秤は違うものが同じ重さで両方の天秤の皿に乗っているので倒れずにいられると感じています。

私としては重りが天秤のお皿に乗っていないでふらふらしないのが理想です。

こういう気持ちになってふらふらしなくなっちゃうと現世から来世へと旅立ってしまうのかもしれません。

あれもこれもと考えられる間は意外に大丈夫なものです。

私が選んだのはTRPGリプレイ。

世界を救う(?)勇者パーティキャラクターを現実にいるプレイヤーたちがサイコロを振りながら遊ぶ様子を文章化したものです。

ファンタジー世界で伝説の清らかな乙女にしかその背に乗ることを許さない聖なるユニコーンもリプレイの中ではプレイヤーたちは

「うむ、宮廷でユニコーン保護か。うちの娘に世話をさせようとさせたら拒否られてとか、ありそうだな」

「中世の宮廷は奔放ですからな。いろいろと発覚して大問題に。犯人探しでよくもうちの娘の純潔を奪ったなと決闘なんかが頻発してそうですな」

という具合なので世界を救う目的とすちゃらか具合がいいバランスで安心します。

そして楽しい時間を過ごしてこう思うのです。

「また一日が無駄になった」と・・・。(書けなかったときもカウントしているので、75からいきなり78に飛んでます)
















こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。