2025/01/31

—ひきこもりサバイバー37 -ひきこもりの時間感覚-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

「何年もひきこもっていて外に出ないんです」

 「何年もひきこもっていて平気なのでしょうか?」 

 ひきこもりの人に対する家族の言葉です。

 この時間感覚の話についてひきこもっていると生活に曜日感覚がないので時間への感覚が社会人の人とは違ってくるという一面があるという話をしたことがあると思います。

 月火水木金が終わってやっと休みゆっくりしよう。

 というような社会人の方が普通に感じているメリハリがないので休みを心待ちにするという意識が生まれず、時間感覚への関心が 鈍くなります。

 そしてもう一面。 強い不安ストレスを感じているのでそれと対峙することで 時間を短く感じているという面もあります。

私がある日、ぼんやりテレビを見ていると飛行機の墜落事故を回避したスタッフの話をやっていました。

その中で機長が胴体着陸をするかどうかを悩んでいると

「燃料があと十五分飛ぶ量しかありません」と副操縦士が声をかけ 

 「何だって、まだ一時間分は残っているはずだ」と驚くシーンが ありました。 

 機長は問題に集中するあまり、時間感覚への意識が 鈍くなっていたのだ! との解説がありました。

 調べてみると好きなことをしていると時間がたつのが早いのは 一つのことに集中しているためでその点では強いストレス下にいる人と同じ現象が脳内で起こっているということでした。

 そういえば私もひきこもっていた期間が4年間あったと言われて びっくりした記憶があります。

 不登校になったときも気づいたら「明日から学校いかないと卒業できない」という状態で包丁を握っていました。

それを考えると 年末にひきこもりの人に「今年でひきこもって二年目ね。ケーキ食べ ましょう」くらいは言った方がいいかもしれません。

 もちろん逃げる準備をして!

 私もひきこもり4年目の冬に弟が大雪の日に外にたたき出してくれなかったら 今もひきこもっていたことでしょう。

 二十一年前に三十年に一度の大雪が降ってくれて本当に運がよかったなぁと 今は思います。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

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