2025/03/28

—ひきこもりサバイバー45 -私が思う世間のひきこもりの定義とは?-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

あなたはひきこもりと聞いてどんなイメージを持つでしょうか?

 部屋から出ない?

 家から出ない?

 それとも会社に行ったり学校へ行ったりしない?

 サポート施設には通うけれどそれ以上の進展がない?

 私の感覚としては 「みんなが仕事をしているのに、学校に行っているのに あなたはそれをしていない」という感覚が今の世間の人のひきこもりの定義のように感じられます。

 簡単に言えば仕事がめちゃくちゃ楽しくてめちゃくちゃ充実していて 

 「一生懸命働くことでこんなにも人生は豊かで幸せなのにそれを体験しない なんてもったいない!!」

と思ってくれているんだろうなぁと感じるわけです。

 テレビなんかで「仕事ないときは家に引きこもって出かけたりしないんですよ」と 芸能人の人が言っているのを見ても「ひきこもっている」ことは 楽しくて充実している人生を無駄にしてるという感覚があることがわかります。

 そう考えるとひきこもりをサポートする皆さんが外に出ることを進める理由は外の方が幸せだという確固たる意志によるものだとわかります。

 ちゃんと「人並みに」幸せになりたいな。

 そんなことを思う今日この頃でした。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/03/21

—ひきこもりサバイバー44 -簡単なひきこもりの原因追及-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

あなたは頭が痛いとき、鼻水が出るとき、その原因は何だと考えますか?

 では人生がうまくいっていないときは?

 答えはそれぞれだと思います。 

 そしてひきこもりについては後者の論調で語られることが多いように 感じます。

 簡単に言えば「努力すれば何とかなるのになぜ努力しないんだ」という 論調です。

 その良い悪いはおいておいて今回は前者の考え方でひきこもりの原因を追及していこうと思います。

 考え方としては「なぜその状態を続けているのか?」を基本とします。

 そこで参考になるのが「あなたはなぜ今の会社で働いているのか?」です。

 答えの出し方は人生がうまくいかないという理由の特定が困難な考え方ではなく、頭痛いし鼻水も出るから風邪かなの簡単な考え方です。

 精神的ではなく、物理的な考え方と言ったらわかりやすいでしょうか?

 そうすると 「あなたが今の会社で働いている原因」は「入社試験にパスしたから」 となります。

 「あなたがその仕事を続けている原因」はもちろん「会社があなたを首にしないから」です。

 あなたが「仕事辞めたいなぁ」と思ったとき会社が「じゃあ首だよ」と 即座に反応すれば、あなたは仕事を続けることができません。

 仕事を続けたくても会社が「首だよ」と言ったら続けられません。 この考え方で行くと 「ひきこもりの人がひきこもりを続けている原因」は 「会社学校があなたは首だ」といったからとなります。

 ひきこもりの人の心を深堀せず、表面の現象だけ見ればそうです。

 そして「その状態が続いている原因」は「会社学校がひきこもりの人を首にしたままだから」です。

 「社会がひきこもりの人を必要としていない状態」といった方が的確かもしれません。

 少なくとも「ひきこもっている人を高給好待遇でわが社に!」という状況にはありません。 

 日本には昔高度成長期というのがありました。

 「誰でもいいからうちの会社に入ってくれ!」 という時代です。

 ちなみにその時代は「校内暴力全盛期」 不良問題児でも学校を卒業できた時代でもあります。

 廊下に立たされたり、竹刀持った教師にぶん殴られる時代でもあります。

 景気がいいのでとにかく人が欲しい。

 そんな会社の需要と学校の供給の関係が生み出した現象でした。

 今はどうでしょうか?

 コロナ禍の中で仕事をしたくてもできないともがいている人たちを見ているとついこんなことを考えてしまいます。

 今までやってきた仕事ができなくなり、でもすぐに同じやりがいと収入を得ることができない。

 それは私には人並みの幸せを求めて挫折し、もがいているひきこもりの人たちと何も違わないように思えてなりません。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/03/14

—ひきこもりサバイバー43 -みんなが気付かないひきこもりの人の親への気遣い-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

ひきこもりの人も風邪をひきます。

 しかし病院にはいきません。

 ひきこもりの人が同居している親に対して 「こんなことになって迷惑をかけっぱなしだ」 と申し訳なく思っているからです。

 ひきこもっているということはそういう親への気遣いです。

 ただでさえ世話になっているのに病院代まで出させては申し訳ない。

 家にいれば風邪一つひかないなんてことはありません。

 ひきこもりの人が病院に行かないのは風邪をひいて熱が出てきつくても病院へいって親にお金を使わせることへの申し訳なさが勝つからです。

 ひきこもりの人がカウンセリングや心療内科への受診を拒むのも実は この親への気遣いが関係しています。

 一回だけでやめてしまうのは出ていく金額を知ってしまうからという一面があります。

 ゼロ円生活をしていた私は初診で一万円出払うとき手が震え、千円札一枚しかが返ってこなかったとき目の前が真っ暗になりまし た。

 あなたが自分の親が自分の治療費として1000万円払っているのを見たらどんな気持ちに なるでしょうか? 

大きな手術なら迷惑をかけると思いつつも目をつぶって感謝できるかもしれません。

しかし話を長くても30分話を聞かれた後、1000万円払わされている親を見て目をつぶることはできないのではないでしょうか?

「また来たらまた1000万円親に払わせることになる」

もしかしたら

「お母さんは騙されているのでは?」

そんな気持ちになるかもしれません。 

ここに来るたびに1000万円が失われる。

あなたは何回それに目をつぶれるでしょうか?

 そうを想像してもらえばひきこもりの人が一回で心療内科への通院をやめてしまう気持ちが わかるのではないでしょうか?

 コロナ禍でお家時間が増えるといつもと違った気づきが多いです。

 精神病にされたくないと「人と同じ」でいたいという気持ち、親の言うことを聞きたくないという気持ちも大きいのですが、その根底には親に対する気遣いがあるのです。

 私もひきこもっているとき足を怪我して靴下が真っ赤になるくらい血を流しても病院にはいきませんでしたよ。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/03/07

—ひきこもりサバイバー42 -ひきこもりの人は真面目なのになんでひきこもってしまうの?-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。

◆◆◆

「それまで真面目に学校にいっていたのに急にひきこもって」 

 そんな声をよく聞きます。

 その理由を探してみんな頑張っています。

 しかしゆっくりと振り返るとその複雑な話を簡単に見ることも できることに気づきます。 

 小学校高学年でも中学校でも高校でも大学でも会社でもいいのですが そこで立ち止まってしまうひきこもりの人たちは単純に 「人と同じ」というワードに引っかかってしまったに過ぎないのでは ないでしょうか?

 あまり複雑に考えないので単純すぎる話になりますが 学校では全員同じ授業を受けます。 

 同じ時間同じ教科を勉強し、同じ時間体育で体を動かします。 得意不得意がでます。

 「人と同じように」できない。

 それぞれが違うことに気づきます。

 しかしテストの点数が悪ければ怒られ、良ければ褒められます。

 苦手な教科を得意な教科より多く勉強したいと思っても学校は決まった時間均等に授業を消化する場所なのでできません。

 真面目な子はここでつまずきます。

 ひきこもるほど真面目な子は「宿題を忘れる」ことでさえ「みんなできているのに」と思い、すごく落ち込みます。

 ひきこもる人にとって人と違うことは「悪いこと」です。

 毎日、学校で「人と同じ」時間割をこなしていれば自然とそうなります。

 体調が悪くても会社に行く社会人のように・・・

 休むと査定に響くんじゃないかと恐れる社会人のように・・・

 習慣は強い力を持っています。

 毎日やっていることが心地よく正しいことだと思ってしまいます。

 正しいことのはずだと信じてしまいます。

 「人と同じ」ことをしなくちゃいけないのに「人とは違う」。

 これは大きなつまずきどころです。

 小学校は住んでいる区域で決まり、中学校も普通はそう、高校生になるときに突然、いける高校リストから選ぶことになり、大学になると 人と同じ選択というのはかなり難しくなります。

 高校受験の時は私立と公立を十校以下の中から二つ選べばよかったのに、 大学になるとその数は788大学(旺文社 教育情報センター 2021 年 4 月 1 日)に増えます。

 学部とか考えるさらに選択肢が増えと選ぶだけでもとんでもないエネルギーが必要になります。

 さらに大学生から社会人になるときいきなり「自分の好きに選びなさい」と とんでもない難題が突き付けられます。 企業数だけでも3856457(統計局平成28年度調査)です。 

 小学生で「人と同じようにすること」つまりは「人並み」を見失って つまずいた人にはきつすぎる課題です。

 中学生でつまずいた人、高校でつまずいた人、大学でつまずいた人。

 どの段階の人でも怖くて逃げだしてしまいます。

 せめてひきこもった時点から社会人になった「人と同じ」ようにやらなかった中学高校時代の 勉強とその青春時間を補填してくれればいいのですがそれはなく、高校卒業認定試験で合格を勝ち取るぐらいの時間はあるのですが、本当の中学高校生活勉強力はつきません。

それをやらないので 「ひきこもりの人は人間関係が苦手だ」という面がサポートアプローチの最重要点となってしまいます。

 働きながら勉強する人は立派です。

 しかし彼ら彼女らは「人と違って」立派なのであって「人と同じ」を 目指すひきこもりの私たちにとっては参考にするべきお手本にはなりえない気がするのですがどうでしょうか?






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。