福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『あなたはひきこもりですか? それともひきこもり脱出者ですか?』というお話。
◆◆◆
ひきこもりの人も風邪をひきます。
しかし病院にはいきません。
ひきこもりの人が同居している親に対して 「こんなことになって迷惑をかけっぱなしだ」 と申し訳なく思っているからです。
ひきこもっているということはそういう親への気遣いです。
ただでさえ世話になっているのに病院代まで出させては申し訳ない。
家にいれば風邪一つひかないなんてことはありません。
ひきこもりの人が病院に行かないのは風邪をひいて熱が出てきつくても病院へいって親にお金を使わせることへの申し訳なさが勝つからです。
ひきこもりの人がカウンセリングや心療内科への受診を拒むのも実は この親への気遣いが関係しています。
一回だけでやめてしまうのは出ていく金額を知ってしまうからという一面があります。
ゼロ円生活をしていた私は初診で一万円出払うとき手が震え、千円札一枚しかが返ってこなかったとき目の前が真っ暗になりまし た。
あなたが自分の親が自分の治療費として1000万円払っているのを見たらどんな気持ちに なるでしょうか?
大きな手術なら迷惑をかけると思いつつも目をつぶって感謝できるかもしれません。
しかし話を長くても30分話を聞かれた後、1000万円払わされている親を見て目をつぶることはできないのではないでしょうか?
「また来たらまた1000万円親に払わせることになる」
もしかしたら
「お母さんは騙されているのでは?」
そんな気持ちになるかもしれません。
ここに来るたびに1000万円が失われる。
あなたは何回それに目をつぶれるでしょうか?
そうを想像してもらえばひきこもりの人が一回で心療内科への通院をやめてしまう気持ちが わかるのではないでしょうか?
コロナ禍でお家時間が増えるといつもと違った気づきが多いです。
精神病にされたくないと「人と同じ」でいたいという気持ち、親の言うことを聞きたくないという気持ちも大きいのですが、その根底には親に対する気遣いがあるのです。
私もひきこもっているとき足を怪我して靴下が真っ赤になるくらい血を流しても病院にはいきませんでしたよ。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |
0 件のコメント:
コメントを投稿