2020/01/25

ひきこもりサバイバー3 —危険な就労ありきの支援(その1)—

 ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。3回目は「危険な就労ありきの支援(その1)」です。随時掲載の予定です。

◆◆◆
 
 嗜癖行動学研究室にエッセイを掲載するようになって間もなく、ひきこもり問題を取材している記者の方からメールをいただきました。
ひきこもり体験者である私が「伴走」という言葉について、とても息苦しいイメージがあるというエッセイを読んでくれてのメールでした。

直接会って話をしたいとのことでしたが、私はひきこもり体質なので他人とのコミュニケーションが苦手であること。毎日頑張って仕事に出ているので休みの日はぐったりとして休まないと、持たないことなどをメールで返信しました。
ひきこもり問題を取材し、ひきこもり当事者の声をよく聴いているこの方はメールでのやりとりをOKしてくれました。

さて、その方と話題となったのが「ひきこもり支援のゴールとは何か?」ということでした。
「なぜあなたも、四戸先生も就労ありきのひきこもり支援を否定するのか?」
という真摯な問いかけには、そのことに対しての疑問はあっても否定はありませんでした。
「ひきこもりに対する就労支援がなぜダメなのか?」
というのは誰しも思うことです。
私はこの問いかけに対して
「ひきこもり体験者として、今の体制での就労支援は絶対的な危険性をはらんでいるように感じる」
というとても感覚的なメールを返しました。

普通ならそこで終わりなのですが、この方は「その感覚とはどういうものなのですか?」と、優しい問いかけを続けてくれました。
「伴走」のところでも書きましたが、きちんと視線を下げて走れない、元ひきこもりの私の前に手を差し伸べてくれたわけです。
そうして、何回にもわたるやり取りの中で、ひきこもり体験者の私が感じでいる“危険性”についての答えにたどり着くことができました。

それはひきこもり体質の人は「燃え尽きやすい」ということにつきるのです。
過去においても、また現在においてもひきこもり体験者は、
「あんなに頑張ったのに、努力したのに、責められるのはひどい」
と思うことが多いです。

これはひきこもりになった人にしかわからない感覚です。
一般の方からすると、「みんなも頑張ってるよ」「苦しいのはあなただけじゃない」「誰でも最初はできないんだ」と思われるでしょう。

でも違うのです。
ひきこもりの言う「つらさ」というのは、自分の本質を勘違いしているか、理解できていないことによるものなのです。
より正確には「言葉で説明できない」体験なのです。

これは、“今の社会”に適応している人と、その“今の社会”でひきこもっている人の話す言葉の意味は、まったく違うと言ったらよいでしょうか。
このとてつもない差異を頭において、これからの話を読んでいただければ幸いです。
〔エッセイ4に続く〕






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。