福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『小さな成功の極意』というお話。
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成功するには小さな成功体験を積み重ねることが大切だと言われています。
ひきこもり家族の場合も、医師などから常に「まずは小さなことから」と
口を酸っぱくして言われます。
しかし”小さな成功を体験させる、達成させるための労力は生半可なことではありません。”ひきこもりの支援者の方や親御さんはひきこもりの人を相手にして、こう思うのでは
ないでしょうか?
成功すれば
「これからもがんばっていけばきっと就労まで・・・この地獄のような努力を続けなければならないの・・・」
失敗すれば
「なんでこんな小さなことができないんだろう、いやもっと頑張って、ひきこもりの人の気持ちによりそって・・・ってどこまで寄り添わないといけないんだろう?これ以下のことって支援マニュアルにもないし・・・。」
ちなみにこれはひきこもりの人も同じで
「支援者の人のおかげで外に出られるようになった・・・でもいつになったら、自立できるんだろう? 毎日施設に通ってもお金にならないし、料理とか教えてくれて、生活力上がるわけでもないし、ハンデを埋める資格を取らせてもくれない。」
と不安になります。
家の近くのハローワークにはあきあきでも、都心に行きたくても資金がありません。
まあ、ひきこもりの人は結構しっかりと目標を立てていますが、小さな成功体験には程遠い大目標です。
ただ小さな成功体験のための極意のヒントは入っています。
それは小さな成功体験は「”自己完結で”できることでないといけない」ということ です。
ひきこもりの人は
「ここにいてもお金にならない、生活力も上がらない、資格も取れない。」
と言っています。
つまり「お金を稼ぐ、生活力を上げる、資格を取る」ことが目標で、成功です。
お金を稼ぐためにまず何をするか?
小さなこととして、施設に通うときに昼めし代を500円もらい、200円の弁当をスーパーで買うことを目標にします。
一日が終わって、手元に残った300円の重みこそが小さな成功体験です。
これならアルバイトする超困難にくらべると、ちょっと難しい程度です。
”自分の意志と行動だけ”があればできることが本当に実行可能な小さな成功です。
他人が一人でも入ってくると難易度はイージーからベリーハードになります。
これは支援者の人と同じで「ひきこもりの人を尋ねること」を目標にすれば、思い悩んで苦悩することもありません。
内閣府の若者の生活に関する調査報告でもひきこもりの人が相談したいと思うのは 「親身になってくれる」「医師がいる」「無料」 が70%以上となっています。
ちなみに「NPO」の利用「訪問」は6%前後。
まあ、当たり前ですがこっちのタイミングで行くから無料で、
「そうですね。 頑張ってますねって言ってくれるところがいい」
ということですね。
支援者の方は「来た、見た、勝った。」
ならぬ「行った、話しかけた、がんばった。」
と自分で自分を褒めないとむなしくなるというお話でした。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |