2020/08/04

ひきこもりサバイバー12 —“新ひきこもり”の登場—

福岡県立大学で教員をしている四戸智昭です。
 ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。今回はひきこもりは、なぜ体力がないのか、対人能力が低いのかについて書いてもらいました。

◆◆◆

ひきこもりの人は、自らのひきこもり体験を通じて自然と
「命を守るのための戦い」そして、「自殺回避のための行動」
が自然と身についていきます。

ひきこもっていれば、一番安心ではありますが、それでもひきこもり生活を長く続けてい
ると、危険な状況が彼らを襲うこともあります。
「何十年もひきこもっていたら、殺したくなる親の気持ちもわかる。」
という世間の人たちがいるからです。

もちろん殺人は犯罪です。親の方は罪を背負ってでも、「世間様のために子供を・・・」
という覚悟があるのかもしれません。

しかし、殺される子供の方は
「何十年も創意工夫して自殺回避してきたのに今更・・・。」
と驚く一方で、
「社会的に見て働いていないのは、資本主義的見地からは悪だから・・・」
と冷静に世間の受け止め方を受け入れます。
そう思考しながら、生きていたいのがひきこもりという人間です。
殺されると思ったら先に手を出すのが本能とも言えます。

そこで
「どのように現状を維持、あるいはどの程度の妥協で自殺他殺のリスクを減らせるか」
ということを考え行動するようになります。

一番身近なのが支援施設に通うことや職業訓練やアルバイト、自動車の免許を取るなどの
行動です。
ひきこもりの人にとってこれらは大変な苦行になりますが、殺されるよりはましです。

こうして苦しさを我慢しながら親、支援者、社会の要請に迎合できる間だけでも
生き延びようとあがく“新ひきこもり”と言うべき人たちが生まれています。

しかし引き延ばしにも限度があります。それが限界にきたときどうなるのか?
無理をして社会に出たひきこもりの人の将来が心配です。
本来あるべきは、ひきこもりの人の個性を受け止められる社会の創生だと思うのは私だ
けでしょうか。




こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)



<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

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