2021/10/17

ひきこもりサバイバー26 -小さな成功の極意、やるときは自己完結で-

福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『小さな成功の極意』というお話。

◆◆◆

成功するには小さな成功体験を積み重ねることが大切だと言われています。

ひきこもり家族の場合も、医師などから常に「まずは小さなことから」と 
口を酸っぱくして言われます。 

しかし”小さな成功を体験させる、達成させるための労力は生半可なことではありません。”ひきこもりの支援者の方や親御さんはひきこもりの人を相手にして、こう思うのでは
ないでしょうか? 

成功すれば
「これからもがんばっていけばきっと就労まで・・・この地獄のような努力を続けなければならないの・・・」

 失敗すれば
「なんでこんな小さなことができないんだろう、いやもっと頑張って、ひきこもりの人の気持ちによりそって・・・ってどこまで寄り添わないといけないんだろう?これ以下のことって支援マニュアルにもないし・・・。」

 ちなみにこれはひきこもりの人も同じで
 「支援者の人のおかげで外に出られるようになった・・・でもいつになったら、自立できるんだろう? 毎日施設に通ってもお金にならないし、料理とか教えてくれて、生活力上がるわけでもないし、ハンデを埋める資格を取らせてもくれない。」
と不安になります。

 家の近くのハローワークにはあきあきでも、都心に行きたくても資金がありません。

 まあ、ひきこもりの人は結構しっかりと目標を立てていますが、小さな成功体験には程遠い大目標です。

 ただ小さな成功体験のための極意のヒントは入っています。

 それは小さな成功体験は「”自己完結で”できることでないといけない」ということ です。

 ひきこもりの人は
「ここにいてもお金にならない、生活力も上がらない、資格も取れない。」
と言っています。

 つまり「お金を稼ぐ、生活力を上げる、資格を取る」ことが目標で、成功です。

 お金を稼ぐためにまず何をするか?

 小さなこととして、施設に通うときに昼めし代を500円もらい、200円の弁当をスーパーで買うことを目標にします。

 一日が終わって、手元に残った300円の重みこそが小さな成功体験です。

 これならアルバイトする超困難にくらべると、ちょっと難しい程度です。 

”自分の意志と行動だけ”があればできることが本当に実行可能な小さな成功です。

 他人が一人でも入ってくると難易度はイージーからベリーハードになります。

 これは支援者の人と同じで「ひきこもりの人を尋ねること」を目標にすれば、思い悩んで苦悩することもありません。

 内閣府の若者の生活に関する調査報告でもひきこもりの人が相談したいと思うのは 「親身になってくれる」「医師がいる」「無料」 が70%以上となっています。

 ちなみに「NPO」の利用「訪問」は6%前後。

 まあ、当たり前ですがこっちのタイミングで行くから無料で、
「そうですね。 頑張ってますねって言ってくれるところがいい」
ということですね。

 支援者の方は「来た、見た、勝った。」 
ならぬ「行った、話しかけた、がんばった。」

 と自分で自分を褒めないとむなしくなるというお話でした。



こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

ひきこもりサバイバー29 -ひきこもり脱出は就労とは違いますよね?-

福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもり脱出は就労とは違います』というお話。

◆◆◆

”ひきこもり脱出とは就労・就学である。”

 そんな認識が社会レベルで根付こうとしています。

 いやそんなことはないと言われても、ひきこもりの定義が

 「六か月以上、家族以外の人との交流がない、社会的活動を していない」

状態 となっている以上、

ひきこもりの人がひきこもり脱出とはその逆の

 「家族以外の人と交流がある、社会活動をしている」

 状態がひきこもり脱出と考えられていると思うのは当たり前ですよね?

 そしてひきこもりの人にとって社会活動とは「学校へ行く」 「仕事に就く」です。

 最大限、甘く見ても「社会活動と認められている場所に行く(例えば、フリースペース)」 というのがひきこもり脱出となります。

 まあ、そこで「何もしなくていい」「来たいときだけ来たらいいから」 とは言われるわけで「行ったら行った」で「明日も待ってるから」 的なプレッシャーが来ます。

 ひどいときには「最近来ないけど大丈夫?」とか追加ダメージが来ることも。

 正直、ごく平凡なひきこもりとしては、家では働けプレッシャーがすごいので 社会活動のために「安心して熟睡できる場所」を提供してもらえたら どんなにありがたいかと何度も思いました。

 「好きなことをしていいから」とモンハン(ゲーム)を持ち寄ってきたひきこもりの人と プレーして帰れる社会的活動の場所があればよっぽど交流できるのにと も・・・。

 正直、まっとうに社会生活している人と話すのはきついし気を遣います。

 しかしながらひきこもり同士で話があるかと言えばあんまりない。

 いろいろとイベントを用意してもらってもベジタリアンが肉を出されて困惑するような感覚があります。

就労へのステップ感が半端なく、「今日、花火見に行って遊んだんだから、気晴らしになったでしょ?」

「気晴らししたら、次にすることは就労よね?」とい う幻聴が聞こえそうです。

もちろん被害妄想幻聴でしょう。

 被害妄想幻聴ですよね? 

 ひきこもりの集まりに行ったら、そこから就労支援NPOに行くように誘導することもありませんよね?

 就労支援の場所へ行ったら 「就職活動につながるように、訓練に参加しないのならなぜ来たのですか!」 と嘆かれることもありませんよね?

 ひきこもりを脱出して外に出ることと就労が混ざってしまっていませんか?

 混ぜてしまってはいませんか?

 「ひきこもり脱出成功! 外に出られるようになったね!」

 ここで一休みしてはいけませんか?

 考える時間をいただけませんか?

 やっと慣れた安心して集まれる場所で安定した心を取り戻すためにひきこもっていた半分の時間でもいいので、そのまま過ごさせていただけませんか?

 疲れ果てて職場で倒れ仕事を辞めてしまった人にあなたは

 「しばらくは家でゆっくりすればいいよ」

 と言葉をかけませんか? 

 もしそうならばひきこもり脱出のために頑張った人にも同じやさしさを持って 

「何年もひきこもって大変だったね。しばらくはここで ゆっくりすればいいよ」

 と声をかけてあげてください。

 就労を急がず、ちゃんと自分で考えて動き出すだけの力を蓄えるまでには時間がかかります。

 ひきこもり脱出は外に出ること。 就労はお金を稼ぐこと。

 それを世間が混ぜてしまうので、ゆっくりと休んで力を蓄える場所で、休養の効用をそぎ落としてしまう力が混ざって効果が半減してしまいます。

 「明日から休みだ。休みの間にこの仕事を終わらせてくるように」 あなたはこれを給料なしで受け入れられますか?





こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2021/10/16

ひきこもりサバイバー28 -ひきこもりの人にとってこれから絶対に必要なものは?-

福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの人にとって、これから絶対に必要なものとは』というお話。

◆◆◆

これを読んでくれているあなたにも言えることなのですが、 これからの最低限の生存戦略として必要となる技術です。

 もっとも今、社会人として普通にやっている人にとっては ごくごく当たり前のことなので「そんな簡単なこと?」と 鼻で笑われるかもしれません。

 しかしひきこもり期間があって学生時代にそれがなかった(ポケベルが ならないとかが最新ヒット曲だった時代の人間、私とか)に とっては仕事をはじめて12年たっても、なかなか身についていない技術です。

 いわゆる「スマホ決済」というやつです。

 難しく言えばキャッシュレス社会への適応力こそがひきこもりの人にとっての最も重要で困難なミッションになります。

 最近、私は唯一の友達のすすめで某有名メーカーのネットショップに登録しようとしたのですがそこで求められたのが 「携帯電話の番号」 でした。

 「家電話の電話番号」 を入れると「正しい電話番号を入力してください」とのこと・・・ 。

 セキュリティ上、個人携帯番号がないとダメらしいのです。

 銀行すらも支店や窓口をどんどん減らし、政府もデジタル庁を作って紙幣(紙 のお金)の数を半分にすると言い出した2020年。

 ひきこもりの人、「スマホなんて使わない!」と言って時代に乗り遅れた人(私)が 今、身につけるべきはスマホを買う勇気!なのです。

 政府計画では2030年までは紙幣は存在する予定なので2021年の 今から9年以内にスマホを持っていないひきこもりの人は自分の携帯番号 を手に入れることを目標にしましょう。

 ひきこもりの子供を持つ親御さんは将来の身分証明書、保険証、継続支援を 受けるために必要な道具として子供さんにスマホを買ってあげましょう。

 使わないとか使う必要がないと言われたら「メルカリ」に登録できるようになったらいいからと練習を強要しましょう。

 ともあれ、家は持ってなくてもスマホは持ってないとダメという世界のキャッシュレス事情を考えると子供が高齢になったとき、スマホを持っていないために国の支援を受けられないという事態が起こらないとも限りません。

 これは8050問題よりももっとすごい問題に思えます。

 さすがに国が全国民にセキュリティ万全のマイナンバースマホを無償配布しますとはならないと思うので、その道具としてもっとも有力な候補であるスマホ5Gを手にしておくことはたぶん無駄にならないのではないかと・・・ 。

 スマホのことはよくわかりませんが、「家電話じゃダメなの!?」と びっくりしたので、このエッセイを書いてみました。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。




ひきこもりサバイバー27 -ひきこもり継続を強力に援護する「ほっとタイム」-

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

ひきこもり脱出のためには小さな成功体験を積み重ねることが とても大切という話はよく聞きます。

 小さな成功体験というのがどんなものかは、以前にブログで簡単に 書きました。

 今回はひきこもり視点で、”成功体験は小さければ小さいほど強力に作用する”という話をひとつ。

 ひきこもりの人は、”失敗体験で苦しい”というのがひきこもりの人を含め、 一般的な認識だと思います。

ところがしっかりと見ていくと、実は苦しさの中に小さな成功体験の積み重ねがあります。

 簡単に言えばひきこもりとは失敗が継続している状態とするより、 本人が意識しない
「ほっとタイム」
という小さな成功を積み重ねている状態とする方が私にはしっくりきます。

 支援者の方や親御さんに分かりやすい例を出すと、ひきこもりの人を助けたいという思いでやっている 「訪問支援の失敗」がそれです。

 ひきこもりの人にとっては 頼んでもいないのに家にやってくる訪問支援者は
 「サバンナでいきなり襲ってくるライオンみたいな存在」です。

 貧弱な草食動物であるひきこもりシマウマは、ライオンに家というナワバリに踏み込まれただけでも、
「ああ、死んだ」
と思うレベルの緊張感とあきらめにつつまれます。

 しかし「もうだめだ。ブルブル」と震えていると声をかけてきた ライオンが帰っていきます。
「あれ? 死んでない?」 これは奇跡的な成功体験となります。
 あまりに自分が何もしていないので自覚はありませんが 「助かった」のです。
 「殺されるというか、部屋から引っ張り出される!」ことを 回避したのです!

すごい!

 もちろん震えていただけのひきこもりシマウマに達成感などはないのですが、心の中で「ほっと息をつく」ことはします。
 この「ほっとタイム」こそがひきこもりの人のひきこもるパワーを強化していくのではないかと私は感じています。

 「今、家に親がいないので寝たふりしなくていいほっとタイム」

 「びくびくしなくてカップ麺が食べられるほっとタイム」

 「トイレに行くのに足音を響かせて威嚇したりしなくていいほっとタイム」

 家から出て就労する秘訣が小さな成功体験の積み重ねなら、ひきこもり生活持続の秘訣もまた同じ。

 「明日も仕事だ(仕事に行きたくないなぁ)」と思いながら仕事に行くのは今日仕事に行ったという成功体験があってこそです。

 そしてひきこもりの人が「嫌だけど明日もひきこもろう」と行動するのも今日ひきこもった成功体験があってこそです。

「失敗と思っていることの中に成功が、成功したと 思っていることの中に失敗があるのでは?」 

 と頭をひねっていただければ幸いです。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。