2019/12/30

ひきこもりサバイバー(生還者)1  —押しつけられた目標—

 ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。


◆◆◆


こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

  ひきこもり体験者の生の声を知ってもらうことが必要と思い、書きます。社会からはじかれた体験者だからこそわかる考えや意見を知ってもらい、多くの人がこれまでの社会の当たり前を考え直すきっかけになって欲しいと思っています。


 今回は、いわゆる「引き出し屋」と呼ばれる業者に、900万円の金と息子の命を盗られた親御さんの事件(西日本新聞「業者に託した息子が孤独死…母の後悔―引きこもり“引き出し屋”の実態」2019年12月16日)から感じた、この事件の恐ろしい根っこについてのお話です。

 この事件を通してまず私が考えたことは、900万円もあるならそれを息子さんに渡して“好きなようにしていい”と行動を促せばよかったのに、ということです。

 この場合の行動というのは、外に出るとか就職するとかいうレベルの話ではなく。900万円あったら何がしたいかという思考レベルでの変化を促すということです。

 100万円の札束9つを目の前にポンと出されて、

「これで頼むよ」と言われると、どんな形であれ、心は動くものです。

 もちろんお金を渡されれば、必ずそうなるとは言えないわけですが「あれば使ってしまいたくなるのが人間です」。


 少なくとも900万円の束があれば「これどうしよう」とは思うのです。

 燃やすというのは犯罪ですが、それでさえも「親を殺すか、自分が死ぬか何もしないか、」の堂々巡りの思考から別の思考パターンになります。

 とここまで考えたところで私は「あれれ?」と気づきました。

就労率100パーセントを就職率98パーセントに変えたら、根本的には専門学校に子どもを入学させる親とどこが違うんだろうと。

 とりあえず高校ぐらい出ておかないと、あるいはせめて大学を出ておかないと、ろくなところに就職できないぞ!という親とどこが違うのかと。


 ハローワークで「今、これだけしか募集は出ていないんですよ。」

と言われる募集の中から、「仕事を探せ」という親とどこが違うのかと。

 本人の希望を最大限にかなえるより、“就労を最も優先するこの基本システムの肯定”こそがこの親御さんが詐欺にあった根本原因となっているのではないかということです。


 引き出し屋が、親から1000万円近いお金を引き出し、息子にキツイ介護系の仕事に就かせ、挙げ句、死ぬまで放置させたことは許せることではありません。


 しかし、この親御さんがこの悲劇的な詐欺に乗ってしまった素地は、“就労を最も優先するこの基本システムの肯定”が大前提として成立しているからではないでしょうか。


 例えば子どもが望むユーチューバーへの道を応援するより、1000万円払って大学へ通わせてはいないでしょうか?


 子どもが望まない、県内ではトップクラスだけれども、全国的には東京大学には遠く及ばない知名度の国立大の受かる学部に押し込んではいないでしょうか?


 本人の意思意欲のない進学というのは結局のところ息切れと沈滞を生みます。

 つまりは「卒業できない、したくない、したいことがわからない」の三重苦です。

 大学でパーッと遊ぶ気持ちだけでもあればまだましですが、それもない「親の言うがまま」生真面目にただ枠を埋めてしまう人は破綻を免れません。


 専門学校にしてもそうです。

 私はこちらよりでしたが「ここなら就職できるから」と受かるところを、ため息さえつかずに受けた結果、寮の部屋から出られなくなり社員寮の管理者に発見されて自宅療養を言い渡され、退職となりました。

 もし、私が運悪く社員寮がある会社に入っていなければこの記事にある彼のように死亡していたかもしれません。


 ここからはちょっとした体験知識になるのですが、実はこうなる前に精神科に通院しており、会社からは診断書を提出するようにとの要請がありました。


 診断書を提出していれば、一年四か月は病気療養期間として給与の七割を受け取ることができました。

 しかし、起き上がることもできない私には診断書の受け取りはおっくうで不可能でした。
 会社側にも、病院名を聞いて私に代わって診断書を受け取りに行くという発想はありませんでした。

 そもそも私が病院名と所在地を正確に伝えることができる状態にありませんでした。またここまでの状態になれば障害厚生年金の対象にもなります。

 しかし、病院も役所もそのことを教えてくれません。

そういったあたりも考慮しておいたほうがいいでしょう。


 もちろん予防が第一なのです。しかし、就労への基本システムがそれを許さない。と覚えておいたほうがいいでしょう。


 死ぬまで生真面目というのがひきこもりを選ぶ人たちなのです。








こだまこうじ (元ひきこもり。1976年、福岡県飯塚市生まれ同市在住。)