2012/01/19

家族を変えるあなたの底付き体験



楠の会12月号会報エッセイ 四戸智昭

○底をつく体験
 アルコール依存症やギャンブル依存症の治療では、よく“底付き体験”というものが語られる。依存症者は、自分が依存症に陥っていることを気が付かないことが多い。病気の本人が、自分の病気に気が付かなければ、病気の治療は開始されないわけである。
 だから依存症者達が、「自分ではどうにもならなくなった。回復したい。」と思うターニングポイントがこの“底付き体験”と呼ばれるものである。これは、アルコールやギャンブルのコントロールに自分が無力である。だから他者の力を借りようという宣言でもある。
 治療の場面でも、この底付きを体験させる方法というものもある。アルコール依存症の患者が診察室にやってきたら、援助者は「お酒やめよう」とは言わず「お酒やめない方が楽でしょう。」と突き放すわけです。
 患者は、病院ではちやちやと相手をしてくれるものと期待してやってきたが、「止めないほうが楽でしょう」という逆説的な説明に驚いてしまう。この時、「ああ、おれは自分ではやめられないのかもしれない」と悟るわけで、その次から患者は治療にやってくることになる。これは、患者への底付き体験が上手にいった例である。


○安定したひきこもり家族
 息子が30代後半にさしかかり、それでも、10年前と同じひきこもり状態。でも最近は、家の中で暴れたりすることもない。食事の時は、ダイニングに出てきて“美味しい”と息子が言ってくれる。でも、やはり食事がおわると、息子は部屋に戻ってインターネットに興じている。
 こういった一見すると、安定しているようなひきこもり家族は多い。10年前と同じように「いつまでダラダラしているんだ。」と父親がが息子に説教すると、取っ組み合いの喧嘩になってしまうし、あの頃と比べると、私達父親も母親も歳をとってしまったので、息子に衝突する気力も起きない。
 こうして、ひきこもりの問題を長く引きづって行くと、本人だけでなく、家族までもが「なんとなく安定しているからこれでいいか」という状態になってしまっている家族も多いのではなかろうか。




○回復のためのあなたの底付き体験
 これは、ひきこもっている子どもだけでなく、あなたを含めた家族も妙な安定期に入っている証拠である。足元を見てみるといい。そこに底があるだろうか。足を付いて、這い上がって行けそうな底があるだろうか。
 底に足を付けなければ、回復にはなかなか近づけない。膠着状態に陥った家族は、このことをもう一度思い返していただきたい。「ミーティングに2年出ましたが、何もかわらないので、私はこれでいいわ」と思っているのなら、それは、底がない穴をまっしぐらに落ちてしまっている状態かもしれない。
 ひきこもりの子に変化を求めるのなら、まずはあなたがあなたの変化を求めなければならない。その状況を作らねばならない。変わりたいという気が、心のどこかにちょっとでもあるなら、グループミーティングに来ていただきたい。
 もし、変わりたいという気持ちがなければ、グループミーティングに来ても、残念ながらあなたは変われない。

 さて、5年後、10年後を予想して欲しい。今のまま、子が引きこもった状態を続けた生活で、家計の経済状況が、今のままで続くだろうか。同じような生活を続けられるだろうか。
 もし、続けられそうにないという思いがあるのなら、まずはあなたが変わることが必要である。