2012/12/02

「ひきこもり」というラベルで見えなくなったアディクション

福岡楠の会2012年12月号エッセイ
福岡県立大学 四戸智昭


○アディクションとは何か
 前回のエッセイでは、「ひきこもり」というラベルで家族の中のアディクションという課題が見えなくなってしまったと指摘した。
 
 ところで「アディクション」という言葉が一体何なのかが解らない読者のために、アディクションという言葉の意味について解説をしておきたい。
 
 アディクションとは、人が何かにのめり込んだり、やめられなくなったりする行為を総称する言葉である。ポイントとしては、2点挙げることができる。ひとつは、「強迫観念」である。つまり、“いつもそのことが忘れられない”という状態が強迫観念的状態であり、例えば仕事依存症の夫が、休みの日にも仕事のことを考えているような状態がこれにあたる。
 
 ふたつめは、「衝動性」である。気がついたら“ついうっかり”、それをしてしまっていたという状態が衝動性である。上記の例で言えば、仕事依存症の夫が、休みの日にもついうっかり仕事のメールをチェックしてしまう。というのがこの衝動性にあたる。

 アディクションというと、道徳的に悪いものと考えてしまいがちだが、人は誰でも何かに対してアディクションしている。例えば、ビル・ゲイツはウィンドウズというパソコンのOS(オーエス)を作成したことで巨万の富を得たが、彼は立派なパソコン・アディクションの男である。彼が登場しなければ、万民が簡単にパソコンを操作することは難しかったかもしれない。その意味では、ビルのパソコン・アディクションは、人々の役に立ったと言えるから、アディクションを悪と定めてしまうことはできない。



◯人間関係アディクション(共依存)
 
特定の人物の事が忘れられなかったり、気がついたら、ついその人のために何かをしている場合は、人はその人間関係にアディクションしているといえる。
 
 例えば、母が病弱な息子の事を忘れられなくて、気がついたらその息子のために、食事や入浴の用意をしているというのは、ここでいう人間関係のアディクションである。何度も言うが、“良い”、“悪い”は関係ない。その母はその必要があって息子にアディクションしているわけである。
 
 残念ながら、日本という国では、母の子への献身的態度は、美徳とされる。あるいは妻の夫への献身的態度も美徳と考えられている。結果、良妻賢母をすることが妻であり母である私の役割だと思い込まされている女性たちは多い。
 
 しかし、自分の人生を自分でまず支えられなければ、そういった母の子どもへのアディクションは献身ではなく、単なる“子どもアディクション”になってしまう。
 
 映画女優として有名なオードリー・ヘップバーンは、銀幕のヒロインとしてだけでなく、晩年は恵まれない地域を訪れ、様々な社会貢献をしたことでも有名である。彼女の言葉は、まさにこの事をよく表現している。「自分には、ふたつの手があることに気づきます。ひとつの手は、自分自身を助けるために、もうひとつ手は他者を助けるために。」

 人間関係のアディクションに陥っている人は、オードリー・ヘップバーン流に表現すると、“両手とも他者に差し出している”ことになる。結果、一番大切な自分自身を支える人がいない事にも気がついていない人と言えるだろう。



◯アディクションとは人間の性質である
 
アディクションとは、人間が本来持っている性質である。従って、単純な道徳的感覚で良いアディクションと悪いアディクションに分けることはできない。人はその必要があって何かにアディクションしている。
 
 しかし、近年の日本では、健康意識の高まりと共に、禁煙運動が盛んになり、その結果喫煙率もある程度までは下がる傾向にある。しかし、振り返ってみると、90年台まではわが国も結構喫煙率が高かった。
 
 健康な日本人を作ろうと官民あげて禁煙のムーブメントを起こし、飛行機の国内線や国際線、あるいは新幹線や在来線の禁煙化が決まった頃、実は、様々な暴力事件も多発している。それは、喫煙できないことからくるイライラをキャビンアテンダントや鉄道職員に暴力という形で表現されたと解釈できる。
 
 タバコはかつて嗜好品であった。行き過ぎた健康ブームは、すべての人を幸福にはしない。それどころか、問題が予想もしなかったところで爆発する。ちなみに、世界で初めて禁煙運動を唱えたのはナチスのヒトラーである。ナチズムの最後に何が起きたのかは誰もが知っているところである。つまり、自分にとって都合の悪い人は排除するというジェノサイド(大量殺戮)が起きてしまった。
 
 社会が決めた慣習やルールに従う前に、まず自分の心の声を聴いて欲しい。「私は、心からそれを望んでいるのか否かを。」それが、まず自分を幸せにする唯一の方法であり、結果、家族の幸せに繋がっていく。

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