2012/04/20

親の子離れ、子の親離れが下手な国



福岡楠の会 4月号会報

○母を重く感じる子どもたち

 良い親とは、どんな親を指すのだろうか。実は、この「良い親」というのは、明治の近代化以降、母親の役割として国に押し付けられてきた。(この歴史については前号で述べているので今回は割愛する。)
 近年は、「良い親」にならなければならないという強迫観念を持った母親が特に多い。行動経済成長以降、母親も高学歴になり、大学卒業の学歴を持つ母は今では珍しくなくなった。中には、大学院まで修了したという母親もいる。
 そんな母の子への期待感は、想像に難くない。子どもにも最低でも大学を卒業して欲しいという無言の期待がのしかかる。さらには、大学を卒業しても終身雇用が保証される社会ではなくなったために、小さい頃から習い事に通わせるのも、「良い親」の条件とばかりに、母親たちは、英会話教室やピアノ教室、水泳教室にわが子を通わせる。
 つまり、子どもが大学を卒業して、サラリーを貰い安定した生活が送れるようになるまでが母親の「良い親」としての勤めになってしまっている。
 しかし、こういった家庭の子どもたちが、不登校になったり、摂食障害に陥ったりするのはあまり珍しくない。子どもたちは、不登校や摂食障害という症状を通じて、母の「良い親」を演じる道具になることを必死に拒んでいるのである。


○不登校、ニート、パラサイト、ひきこもりは同じ社会現象

 このような「良い親」の条件は、実は母親たちが自分たちで決めた条件ではない。今の日本社会が暗黙の内に母である女性たちに押し付けている条件である。
 日本社会が暗黙の内に、個々の母たちに押し付けているこのような子育てが達成されない限り、母親たちは育児から解放されることが許されない。しかし、ここに大きな落とし穴がある。
 不登校、ニート、パラサイトシングル、ひきこもり、これらは呼び方こそ違うが症状はどれも同じである。いずれも、母親が子どもと適切な子離れができないことによって生じる社会現象である。
 社会が子育てから母を開放しないと、この国の子育てはますますいびつになっていくだろう。ちなみに、アメリカでは18歳を過ぎると、たとえ進学先の大学が自宅から通える大学だったとしても、子どもはアパートを借りて自活を始めるという。キリスト教圏の国々では、このように、親の子離れ、子の親離れが比較的上手にできている。





 
○日本式家族の岐路
一方、儒教圏の国々では、老いた親の面倒を看るのは子の役割とされているから、この親離れもなかなか進まない。最近の報告では、ある高齢者地域の介護保険料が上がらない状況が起きているという。介護サービスを利用せずに、家族が介護をするから介護サービスに必要なお金が上昇しないという訳である。これも、親の子離れ、子の親離れがなかなか進まないわが国の実情を如実に表している現象といえる。

 
 一方で、この国は、社会保障制度を維持するために国民総背番号制の導入を進めようとしている。これまで、世帯(日本式家族)を単位としてきた社会保障制度を、個人を単位とした社会保障制度に変えようとする動きである。
 こうなってくると、婚姻によって家族の存在を国家として認める道具であった戸籍法はもはや無用の長物になる。日本式家族は、今、大きな岐路に立たされているといっていい。
 儒教式の親と子の関係を維持し続けていくのか?それとも、欧米流のキリスト教式の親と子の関係に舵をとるのか?国民一人ひとりが問われている。


○日本式子育ての終焉
 少なくとも、この国では母親に子育ての役割を担わせてきた時代は終焉を告げようとしている。イクメンという言葉は育児のおいしいとこ取りの父親を指す言葉なのであまり好きではないが、それでも、育児に母親以外の存在が登場してきたことを意味している。
 あるいは、女性たちの中には、子育ての大変さだけを押し付けられるのなら、「産まない」という選択肢を選択するという女性たちも登場してきている。50年後のわが国の人口推計が8600万人と大きく減少するというのはそういった女性たちの静かな子育てストライキの表れでもある。
 先日、ある地域の子育て支援をする自治会の会議に参加した。70代、80代の高齢者達が、地域の小中学生の荒れように閉口して、何か対策を立てようという会議だった。しかし、参加者の高齢者たちの口から最初に出る言葉は「今の親が悪い」だった。その親を育てのが自分たちであることをあたかも忘れてしまったような口ぶりだった。
 子育てはもはや日本式家族の母に押し付けるべきものではない。地域社会で行うべきものであることに早く気が付かないと、この国はいずれなくなってしまうだろう。


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