2025/07/25

—ひきこもりサバイバー62 -ひきこもりの心を抱きしめる-

   福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

仕事を辞めてから休むことを学んでいます。

明日は何もすることがない。

しなくていい。

そのおかげで理由もなくぼんやりすることを覚えました。

しかしそれから一か月後、福岡県の精神福祉センターのひきこもりサポーター講座の講師である長阿彌幹夫さんと雑談をしたときに私は早く働かないと「人並み」ではないととても追い詰められた気持ちになっていました。

それを口にすると長阿彌さんは「ぼーっとして仕事探しをしてないというけど昔の哲学者とかもお風呂入ってぼーっとしてる時間にひらめきがあったりしたんだから今の時代に本当に必要なのはそういう時間を過ごす能力と余裕かもしれないね。僕もいろいろと仕事を変わったり、パートをやったりしながらこういう活動をやっているから普通とはかなり違う生き方をしていると思うよ」と実体験をもとに焦っている私を優しくねぎらってくれました。

「人並み」があるということはそれから外れている人もいると初めて実感した瞬間でした。

「普通の人は毎日、会社に通っている」という思いは強てそれができない自分を認めるのは悔しい。

けれどできないなら自分なりにやるしかない。

そんなことを教えてくれるのはやはり私の思う「当たり前」の外にいる人なのです。

「みんなと違う」ことを悩んでいるひきこもりの人の肩を抱いてにっこりできるのは「みんなとは違う」生き方をしてきた人だけなのかもしれません。









こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/07/18

—ひきこもりサバイバー61 -がんばりすぎに気がついた日-

   福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

仕事を辞めて一月後に福岡県の精神保健センターの「ひきこもりサポーター講座」の「ひきこもり体験者との対談」の席に呼んでもらいました。

四戸先生がいろんなところで宣伝してくれているおかげで私はこういう席に呼んでもらうことが多いです。


そこで講座講師の長阿彌幹生(ちょうあみみきお)さんとリモート対談をした後にセンターにいた楯林さんと長阿彌さんとの雑談になりました。

その雑談の中で「もしかしたら私はみんなと同じようにゲームを楽しまないといけないと思い込んでいてガチガチに世間のルールに縛られていたのかもしれませんね。ホント」とぽろっと漏らしました。

自分でも「あれっこんなこと考えてたんだっけ」と首をひねりましたが楯林さんがそれを受けて「そうだね。私も家に仕事を持って帰ってもお酒飲んで寝ちゃってたから。お酒飲まなければ少しはましな人間になるだろうと最近は飲まないようにしてるんだけどお酒やめてもやっぱり寝ちゃうんだよなぁ」と冗談めかして言ってくれたのではっと気づきました。

「そうか、私はみんなが納得する理由、みんながやるとリフレッシュできると信じている方法を無理をしてなぞっていただけなんだ」と。

そしてお酒を飲まなくても寝ちゃう。

休むことを優先するから忙しい中でも元気でやっていることを認めることを自然にできている楯林さんのことをすごいと思いました。

良いメッセージに勇気をもらいました。


こういう何気ないやり取り、目標を定めない雑談での言葉は新しい気づきを与えてくれます。

とても心に響きます。

私がひきこもり体験者としてこういうイベントに参加するのはこういう素晴らしい体験をたくさん与えてもらっているからでしょう。

良い経験はきっと行動につながります。








こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/07/11

—ひきこもりサバイバー60 -ひきこもりを続ける心の内-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

ひきこもり期間というものはつらいものです。

そして親や友達の慰めや励ましの言葉がことごとく自分を責め立る言葉に聞こえます。

なぜでしょうか?

それはひきこもりの人自身が周りの誰よりも「自分が悪いことをしている」とわかっているからです。

ひきこもりの人が

「自分は今みんなとは違ってとても悪いことをしている。だから怒られるに違いない。社会にかかわるように責められるに違いない」

と怖がって震えているときにまるでそれが伝わったかのように周りの人が学校への登校をはじめとした社会へのかかわりを持つように提案してきます。

普通の感覚では当たり前なのですがひきこもりの人は

「思った通りに怒られた」

「学校に行くように責められた」

「こうやっていることはとても悪いことなんだ」

「それをやっている自分は悪い人間で社会から排除されるのが当然な価値のない人間なんだ」

とまで思い悩んでしまいます。


社会的に言えば「犯罪者」になったような感覚です。

その後に何をするにも「前科者」というレッテルは重くのしかかってきます。


悪いことをした犯罪者なのに「自分がやりたいこと」を考えるなんて贅沢だ。

前科者の自分が社会に受け入れられるわけがない。

そんな真面目な思いが

「ひきこもり続ける以外の道」

を見いだせない本当の原因かもしれません。










こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

2025/07/04

—ひきこもりサバイバー59 -あなたは無理してリフレッシュしていませんか?-

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

あなたは仕事や勉強を頑張った後に何をしますか?

スポーツで汗を流してリフレッシュ?

仕事終わりに一杯飲んでリフレッシュ?

映画や音楽、野球やサッカーなどのスポーツ観戦。

はたまたパチンコや競馬に夢中な日曜日が一番のリフレッシュタイムかもしれません。

私は仕事で疲れた心をいやすために達成感を求めゲームをしていました。

しかし今考えてみるとこれは「人並み」になりたかった私の「無理」だったように思えます。

仕事を終えたら何かご褒美がなくてはならない。

そんな常識を達成するために「がんばって遊んで」いたのです。

本当は疲れ果てた体と心を休めるためにバタンキューが正解なのに「ちゃんとリフレッシュしよう」とさらにがんばっていました。

ゲームは遊びで楽しい、仕事外のリフレッシュタイムだという世間の認識に従ったわけです。

結果は言うまでもありません。

ただでさえ疲れているのにさらにゲームを頑張って疲れが倍増。

疲れが増えると回復のための睡眠時間は長く必要になります。

しかしゲームをがんばったために休める時間は短くなっているのです。

これで心の健康が保てるわけがありません。

私は体調を崩し、仕事から離れる選択をせざるを得なくなりました。

もちろんその時点ではそんな当たり前のことにも気づいていません。

あなたはがんばって「リフレッシュ」していませんか?










こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。