2011/10/31

あなたの家系の暗黙のルールとは何か


福岡楠の会11月号会報掲載 四戸智昭

○音なき声
 「私は、これまで子どもに“勉強しなさい”とか“部屋から出て、仕事を探しなさい”などと言ったことはありません。それなのに、子どもは元気がなく部屋に引きこもっています。」という声を聞くことがある。
 不登校やひきこもりのためのマニュアル本が随分と出まわるようになって、ひきこもっている子どもへの対応の仕方だとか、不登校の子どもに言ってはいけない事などが対処方法としてまとめられるようになり、このマニュアルに従って子どもに接している親は多い。
 マニュアルのトップには大抵「ブラブラと何しているんだ!」「家を出て仕事を探せ!」「学校に行け!」などというメッセージは言ってはいけない禁句としてノミネートされている。
真面目な親たちは、この禁句を心に刻んで声にすることは絶対にしない。しかし、心のどこかでは“いつになったら他の子と同じように学校に行ってくれるのだろうか”とか“いつになったら同世代の人たちと同じように仕事をはじめるのだろうか”という自分の音なき声が心の中でこだましているのではないだろうか。


○子を苦しめるダブルバインド
 心の中だけで響きわたっているようなこだまは、声に出さなくても子どもに伝わる。それは、あなたの何気ない仕草や視線の動き、気付かない態度に現れる。そういった言葉ではない表現(ノンバーバルコミュニケーション:非言語コミュニケーション)は子どもに敏感に伝わる。

また、あなたは言葉にしていないつもりでも、言葉に隠れたメタメッセージとして子どもに伝わってしまう。ここで言うメタメッセージとは、「無理に仕事を探さなくていいのよ。」と子ども伝えたとしても、このメッセージの裏に隠れた「元気になったら仕事を探しなさい。」というメッセージのことを指す。
このような状態は、右手で子どもの肩を摩りながら労をねぎらっても、左手で子どもが部屋を出るような算段をしているようなもので、ダブルバインドと呼ばれる。大抵の子はこのダブルバインドを見事に見ぬいてしまう。
 母親は口では“ゆっくり休みなさい”と言っているが、どうやら本心ではないようだと感じれば、その子は心からゆっくり休むことはできないだろう。


○世代間を連鎖する暗黙のメタルール
 メタメッセージと同じで、家族の中には多くのメタルール(暗黙のルール)が存在する。父方の兄弟や従兄弟たちは、皆、国立大学を卒業している。あるいは、母方の親戚は、皆、公務員である。といったようなものがここで言うメタルールである。
 自分の家庭では、子どもに「国立大学に入学しなさい。」と言葉で言ったつもりはないが、親戚中が国立大学に入学しているような家庭。あるいは、子どもに「就職するなら公務員にしなさい。」と言葉で言ったつもりはないかもしれないが、公務員になることが暗黙のプレッシャーとなっているような家庭は山のように存在する。
 暗黙のプレッシャーが家族の構成員全員に理解されていて、万が一失敗したとしても、まあ、「私とあの夫の子だから、失敗して当然かも。」「私とあの人の子だから、公務員は無理。」と笑い合えるコミュニケーションがある家族はいいのだが、そのようなコミュニケーションがない家族は、“国立大学入学”“公務員就職”が至上命題となってしまう。
  
 こういった家族のメタルールは、世代を連鎖している事が多い。その地域では代々政治家の家系、あるいは代々医者の家系などというのは、そのメタルール(場合によっては表立っているルール)が世代間を連鎖している。気を付けなければいけないのは、政治家や医者の家系でなくても、あなたの家にも世代間を連鎖するメタルールが存在することである。

○自分で気が付かないルール
 厄介なのは、当事家族が気付かないメタルールである。ひきこもりや不登校のことで悩んでいる家族の多くは、自分の家に既述のようなメタルールがあることに気付いていない。
 「私の家はごく普通の家庭で、夫の家系も、私の家系も普通です。」などと言っている親に限って、よそ様と異なることをとても恐れていることが多い。つまり、他人と違ってはいけない。目立ってはいけないということがメタルールになっている場合もある。
 自分の家庭の暗黙のルールというのは、自分の家庭だけじっと観察してもわからない。あるいは、親戚を見渡しただけでは、なかなか気が付かない。全く異なる家庭との接触で、自分の家のメタルールに気が付くことがある。
 気が付くことが出来れば、後は、その事を声に出して家族と共有してみるといい。自分たちがどれだけそのメタルールのために、汲々と生活していたのか。父と母が、そのメタルールのために実はこれまで苦しんでいたことを笑いながら子と共有することができれば、あなたの家族は成長したと言えるだろう。
 その成長のための最初の一歩は、あなたが家族のグループミーティングに出て、他の家族の話をじっくり聴くことである。先日も、“私の家にも、実は暗黙のルールというのがあったんです。”と言ったメンバーの子は、先月から10年ほどひきこもっていた部屋を出て、仕事を探し始めたという。
 

2011/10/27

「思春期のこころとその関わりについて」と題して話をします

福岡県南筑後保健福祉環境事務所にて、「思春期のこころとその関わりについて」と題して講演をします。
具体的な内容は、不登校とひきこもりのお話になります。家族という視点で不登校の子やひきこもりの当事者について具体例を交えながらお話をしたいと思います。






日時:平成23年12月9日(金) 14:00~16:00
講義    1時間30分(途中10分の休憩)
質疑応答 20分

対象者:地域住民(各市町の広報誌やチラシにて周知)、市町職員、学校関係者、医療関係者、相談支援事業所職員など

お問い合わせ先
南筑後保健福祉環境事務所 健康増進課精神保健係
住所 柳川市三橋町今古賀8-1
TEL 0944-72-2176
FAX 0944-74-3295

2011/10/14

福岡市精神保健福祉センター「ひきこもり家族教室」にて話をします

11月24日(木)14:00~16:00
福岡市精神保健福祉センターの「ひきこもり家族教室」にて話をします。
内容は、「家族交流会で私が変わるために~親と子の共依存関係~」です。

いつも不登校やひきこもりの課題で悩んでいらっしゃるご家族にはお伝えすることですが、
不登校やひきこもりという課題と出会ったことで、家族や自分を振り返るチャンスが与えられたのだと思います。

当日は、親と子の共依存関係を中心にお話を進めていく予定です。

2011/10/05

グループミーティングという鏡を通じて得られる変化

(福岡楠の会会報10月号掲載エッセイより)


○ひきこもりは病んだ木の葉の症状にすぎない

 私の専門の嗜癖行動学の視点から不登校やひきこもりという現象を見ると、不登校・ひきこもりという現象は、木々の葉に元気がない症状に過ぎない。すなわち、黄色くなったり、枯れてきたりといった木の葉の症状がそれで、植物を育てることが好きな人ならば、葉が枯れ行く原因をじっと葉だけを見つめて分析はしない。木の根がどうなっているのか?あるいはその土壌がどうなっているのかに気配りするはずである。


 これと同じで、不登校やひきこもりの問題を抱えている家族内の人間関係や、夫婦関係、住んでいる地域や親戚関係における家族の状態を知ろうとする試みが嗜癖行動学の視点といえる。加えて、不登校の子にどうして不登校が必要なのか。ひきこもりの子にどうしてひきこもるという行為が必要なのかという視点もこの嗜癖行動学の視点である。
 一見すると、不登校やひきこもりの問題を解決するために遠回りをしているのではないかと感じる方もいらっしゃるであろう。直接本人に働きかけて、その行動を修正するのが早道と思う方も多い。しかし、近年の嗜癖行動学や家族療法といった視点は、当事者だけでなく、その家族も治療の対象とするのが定石となっている。



○ひきこもりの子を持つ親の病

 このような嗜癖行動学の視点で、不登校やひきこもりの問題を抱えた当事者の親たちを見ていると、一定の法則があることに気がつく。それらは、名称を付けるならば「不登校・ひきこもりの子を持つ親の病」である。
 この親の病には5つの特徴が挙げられる。ひとつめは「強迫観念的態度」である。当然の事ながら、親の関心は子どもの不登校やひきこもりの状態ということになる。四六時中その事が忘れられないという状態がこの強迫観念的態度である。
 ふたつ目は「二者択一的態度」である。親の選択肢が非常に狭くなっていて、学校に行くか行かないか。家にひきこもるかひきこもらないか。というふたつの選択肢しかない状態を指す。“学校の通学路を半分まで行けたら、それもいい。”とか“自室にひきこもっていても、食事の時だけ家族に会ってくれるからいい。”というような第三の選択肢がない状態がこれである。


 3つ目は「現状否定的態度」である。まず、問題の原因を自分の子育てにあると考えて、自分に徹底的に批判をする。あるいは、子の中途半端な状況に対して容赦なく否定をする。残念ながら現状否定からは何も生まれてこない。
 4つ目は「コントロール的態度」である。子どもへの過剰な世話焼きがこれにあたる。親自身が想定したように子どもが動くよう仕向ける行為がこのコントロール的態度で、お金をあげるから散歩に出かけておいてというようなことがこれにあたる。
 5つ目は「自他境界混乱態度」である。自分と子の人格が別々のものであるという意識がほとんどない状態がこれである。子どもの行動があたかも自分の行動のように感じている親の状態がこれである。


 
○親の病の回復にはグループミーティングが効果的

 実はこの「不登校・ひきこもりの子を持つ親の病」は、共依存の病とも言える。この両者の関係が強固に結びついて、親と子の関係が固着しているうちは、子どもには学校に行かないという選択肢が必要になり、ひきこもりの人には自室にひきこもるという選択肢が必要になる。
 楠の会の例会で行なっているグループミーティングは、この親の病に修正を加えるレッスンである。残念ながら、親の病を回復させるための教科書のようなものはない。法則を覚えて暗記すれば、親の病すなわち親の共依存的態度が治るわけではないのである。家族の問題解決に座学だけでは役に立たないという理由がここにある。問題解決のために、幾度となく講演会や講習会に足を運んでも、あるいは何冊もの本を読んでも、自分の行動修正にはなかなか結びつかないのである。
 行動修正のためのレッスンはグループミーティングに継続的に出席するに限る。同じような他者との出会いは、あなたの家族や生活全般を振り返るための鏡である。鏡を見て身だしなみを整えるように、グループミーティングでの出会いを通じて、他者の家族に自分の行為やこれまで気が付かなかった感情を探しだすのである。これは効果てきめんとしか言いようがない。
 先日もグループミーティングで、ひきこもりの子が家を出ていったというお話をメンバーから伺った。その親はとても驚いていた。しかし、ある日突然、子が変わったのではなく、ミーティングという鏡を通じて親自身がジワジワと身だしなみを整え、変わった結果がそれであるとしか言いようがない。