2021/10/16

ひきこもりサバイバー27 -ひきこもり継続を強力に援護する「ほっとタイム」-

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆

ひきこもり脱出のためには小さな成功体験を積み重ねることが とても大切という話はよく聞きます。

 小さな成功体験というのがどんなものかは、以前にブログで簡単に 書きました。

 今回はひきこもり視点で、”成功体験は小さければ小さいほど強力に作用する”という話をひとつ。

 ひきこもりの人は、”失敗体験で苦しい”というのがひきこもりの人を含め、 一般的な認識だと思います。

ところがしっかりと見ていくと、実は苦しさの中に小さな成功体験の積み重ねがあります。

 簡単に言えばひきこもりとは失敗が継続している状態とするより、 本人が意識しない
「ほっとタイム」
という小さな成功を積み重ねている状態とする方が私にはしっくりきます。

 支援者の方や親御さんに分かりやすい例を出すと、ひきこもりの人を助けたいという思いでやっている 「訪問支援の失敗」がそれです。

 ひきこもりの人にとっては 頼んでもいないのに家にやってくる訪問支援者は
 「サバンナでいきなり襲ってくるライオンみたいな存在」です。

 貧弱な草食動物であるひきこもりシマウマは、ライオンに家というナワバリに踏み込まれただけでも、
「ああ、死んだ」
と思うレベルの緊張感とあきらめにつつまれます。

 しかし「もうだめだ。ブルブル」と震えていると声をかけてきた ライオンが帰っていきます。
「あれ? 死んでない?」 これは奇跡的な成功体験となります。
 あまりに自分が何もしていないので自覚はありませんが 「助かった」のです。
 「殺されるというか、部屋から引っ張り出される!」ことを 回避したのです!

すごい!

 もちろん震えていただけのひきこもりシマウマに達成感などはないのですが、心の中で「ほっと息をつく」ことはします。
 この「ほっとタイム」こそがひきこもりの人のひきこもるパワーを強化していくのではないかと私は感じています。

 「今、家に親がいないので寝たふりしなくていいほっとタイム」

 「びくびくしなくてカップ麺が食べられるほっとタイム」

 「トイレに行くのに足音を響かせて威嚇したりしなくていいほっとタイム」

 家から出て就労する秘訣が小さな成功体験の積み重ねなら、ひきこもり生活持続の秘訣もまた同じ。

 「明日も仕事だ(仕事に行きたくないなぁ)」と思いながら仕事に行くのは今日仕事に行ったという成功体験があってこそです。

 そしてひきこもりの人が「嫌だけど明日もひきこもろう」と行動するのも今日ひきこもった成功体験があってこそです。

「失敗と思っていることの中に成功が、成功したと 思っていることの中に失敗があるのでは?」 

 と頭をひねっていただければ幸いです。






こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

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