2020/11/05

ひきこもりサバイバー17 —「褒めて欲しい」母たち—

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。


◆◆◆
 いつもは仕事に疲れて倒れる夏をやりすごしました。
 しかし10月に入ってから妙に体がだるく、何をするのも億劫になりました。
そのとき私は何をしたでしょうか?

YouTube に動画を上げて、それを四戸先生をはじめ、私がひきこもりであることを理解してくれている人にお知らせしていました。

私は最初、「これはテスト勉強が近くなるとゲームをする」ような、逃避行動の一つと思っていましたが、どうも違うようです。

もっと単純で大事な私の心の根っこの問題のような気がしました。
そしてふと
「小さな子供がするように新しいことをして褒めて欲しかったんだなぁ。」
と気づきました。

「ねえ、おかあさんの絵だよ!ほめてほめて!」の心境です。
単純だなぁと自分を振り返りつつ、大人になるとそういうことを、やって欲しいと言えなくなる自分に苦笑いしました。

さらに考えると、私のひきこもり家族相談会に来てくれていた親御さんたちもそうだったなぁという思いに至ります。
彼女たちは「褒めて」欲しいのです。
「私、ちゃんと頑張っているよ!ほめて!」

私にとっては相談会とは「子供が二十歳を過ぎても働かないで」と言いながら、本当は自分の頑張りを褒めて欲しいと言えない母心を認める場所でした。

大したことがないと、頑張りが足りないと言われるかもと思いながらも、相談会に足を運んでくれたお母さんたちに
「それはすごいことだよ、がんばったね」と
 元ひきこもりの立場から褒めることができたのが十七年間もこの相談会が存続できた理由でしょう。
見守っている保健師さんたちには、お母さんたちがどんどん家庭の事情や、自分の気持ちを吐き出していくのがひきこもり脱出への足掛かりに見えたかもしれません。

私が母たちを褒めていた理由は、
親に「早くまっとうに働け!」と言われている
ひきこもりの人への風当たりが少しでも弱くなればと思ってのことです。
子供の頃って新しいゲームを自慢したり、授業中に隣の教室に行って、怒られても平気だったのに大人のレールに乗っちゃうとそれができなくなる。
結果、収入とか学歴とかの差をほぐす機能が失われてしまうのかもしれません。

よそはよそ、うちはうちが苦々しくなるのは
「ほめて、ほめて」を忘れた結果ではないかとふと思った今日この頃でした。




こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)



<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。