2011/02/27

精神科医 斎藤学先生 基調講演「家族機能の視点から考える不登校支援」

福岡県立大学の不登校・ひきこもりサポートセンターでは、去る2011年2月26日(土)に、私たちのサポートセンターでの取り組みを地域の皆さんに知っていただくための公開フォーラムを開催しました。

今回の公開フォーラムは、このサポートセンターの取り組みが平成20年度の文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」に選定されたことを受けて、主にこの3年間の取り組みを報告したものです。

主に、私が行っている家族交流会(不登校やひきこもりの当事者を抱えた家族のグループミーティング)についても、報告を行いました。

基調講演には、私の元職場(家族機能研究所)のボスである。師匠の斎藤学先生に大学にお越しいただき、「家族機能の視点から考える不登校支援」と題して講演を頂きました。 




なかなか斎藤先生の話を聴くことができないからと、在学生や卒業生にも声をかけ、多くの学生達に集まってもらうことができました。

しかし、斎藤学先生の講演を聴いて、一番勇気と刺激を頂いたのは私でした。福岡県田川市や福岡市で行っている当事者家族のためのグループミーティングの意義を再確認できました。また、グループミーティングはただダラダラ開催してもダメで、参加者の目的・目標設定が重要な事だと刺激を頂きました。

斎藤学先生を囲んで サポートセンター職員と自治体職員の皆さん

2011/02/05

怖いという感情を言葉にしてみましょう

(福岡楠の会 ひきこもりの家族会 2011年2月号会報)

福岡県立大学大学院看護学研究科 四戸智昭

○子どもと接するときビクビクしている
 1月の例会ミーティングには、17名という予想以上に多くの皆さんが参加された。参加者にとっては、自らが抱えている課題の解決のため、あるいは他者との出会いのため、自己を見つめるためと、このミーティングに寄せる思いは様々かもしれない。それでも、ミーティングにこれだけのメンバーが集まるのは、ひとえにミーティングへ期待の大きさを感じる。
ミーティングのテーマが「子どもへの接し方」というテーマだったことも、多くのメンバーが集まったことの理由だったかもしれない。ミーティングでは「子どもと接するときに、子どもが怒らないように、ビクビク接している。」という方が意外と多かった。
また、親自身の子に対する“怒り”はあるけれども、なかなかそれが表現できないという方も多かった。

◯恐怖というコントロール装置
怒りという恐怖によるコントロールは、様々な場面で見られる。夫婦間や男女間で身体的な暴力や、心理的な暴力(言葉による暴力)は、DV(ドメスティック・バイオレンス)と呼ばれる。あるいは、テロリストたちが自らの要求をアピールする方法としても、暴力が用いられる。

いずれも、暴力を振るう側は、暴力を受ける側の“恐怖感”を巧みに利用して、他者をコントロールしようとするのが、恐怖による他者支配である。
交通事故や震災の被災者に、被災した恐怖にとらわれてしまって、日常生活が成り立たない人たちがいる。震災の悪夢で眠れなくなってしまったり、ちょっとした物音に過剰に反応してしまったり、というのがそれである。
あるいは、事故や震災当時の匂いや雰囲気で、当時のことが、今起きてることのようによみがえってきたりというのは、フラッシュバックと呼ばれる。こういった症状が出てくると、PTSDという病気ということになる。
この病気になってしまった人たちは、恐怖体験を怖いという体験として脳の中で整理できない。つまり、その体験が“怖かった”と感想すら述べることができない人たちである。また、似たような状況に身を置いてしまうと、恐怖で身動きがとれなくなってしまう。これが恐怖というコントロール装置の仕組みである。

◯怖くて逃げられない
繰り返される暴力や暴言でも、このPTSDと同じような症状に見舞われる方たちがいる。先程のDVの被害者や虐待の被害者に多く見受けられる。彼らは、暴力加害者たちに文字通り身も心も支配されてしまって、そこから逃げ出すことすらできない。
第三者的に考えると、「嫌な状況からは、さっさと逃げてしまえばよいのに」と思うが、暴力や暴言を受けている側としては、わかっていてもそれができない。逃げてしまえば、さらなる暴力や暴言を受けるかもしれないし、何より恐怖で思考が停止してしまっていれば、“逃げよう”という気持ちすら湧いてこないことになる。

◯あなたにはそこから逃げる権利がある
 このような状況までいかなくても、子どもの怒りや罵声、言葉の暴力が怖くて、ビクビクしているという方もいるかもしれない。しかし、親しい関係だとしても、あなたを恐怖で支配してよいという理屈はどこにもない。
 あなたは、あなたの身体と心を守る権利があるし、あなたの身体と心を自由に動かす自由がある。あなたの身体と心を侵害する人がいれば、そこから逃げる権利もあなたにはあるのだ。

 暴力を振るうという加害者の行為は、依存性のもので、エスカレートすることが多い。振るっている本人もコントロールができなくなってしまう。だからこそ、あなたを身体的な暴力や暴言で支配しようとする人がいるなら、さっさと逃げたほうがいい。
 
◯怖いという感情を言葉にしてみましょう
あなたが、感じている感情をそのままあなたが受け止めて受容してあげる。そのために、あなたが取れる方法を選択してあげる。当たり前のように思えることだが、もしこのエッセイを読んでいる人の中に、家族の中の暴力や暴言で苦しんでいる人がいるのなら、ぜひあなたのためにそうしてあげて欲しい。
 なかなかそれができませんというのなら、次回のミーティングにいらしていただきたい。そこで、怖かったあなたの思いを吐き出すことからはじめてみましょう。そこからあなたが変わります。あなたが変わると、あなたの家族も変わっていきます。
 次回のミーティングでは、家族と接するときのあなたの感情を中心に、それをあるがまま感じて、あるがまま言葉にしてみましょう。

NHKクローズアップ現代「はたらくのが怖い 新たな”ひきこもり”」

昨年から、福岡楠の会(ひきこもりの当事者を抱えた家族の会)で、グループミーティングのコーディネーターをさせていただいています。

2月3日のNHKクローズアップ現代では、「はたらくのが怖い 新たな”ひきこもり”」と題して、この楠の会のグループミーティングの様子が放映されました。この写真は、そのグループミーティングの様子です。リンクからは、様子の映像がご覧になれます。



NHKのタイトルが、なぜ”新たな”ひきこもりとしたのか?その意味は推測しかねます。単に”新しい”という形容詞を付けることで、注目を集めるだけだとしたら、ひきこもりという社会の課題の意味を分かっていらっしゃらないようにも思います。ひきこもりの方々は、今もそして以前からも社会に出ることを恐れている人たちで、働きたくても働くことができない人たちだからです。

ところで、社会から注目を集める”ひきこもり”という課題は、いつも当事者だけが注目されますが、その当事者とともに暮らしている家族の辛さや家族の課題にもっと目を向けるべきだと考えています。まさに、現代社会は、ことひきこもりの課題に関して、「気を見て森を見ず」の状況だと思います。

全国引きこもりKHJ親の会によると、ひきこもりの人の数は、100万人を超えるとも言われます。当事者家族は、単純に見積もっても、その3倍~4倍、実に400万人を超える人が”ひきこもり”という課題で悩んでいらっしゃいます。(拙著『21世紀の心の処方学』より)