2025/05/16

—ひきこもりサバイバー52 -ひきこもりとして、親として理解しておきたいニュースの力-

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『小さな成功の極意』というお話。

◆◆◆

テレビを見ていると80歳の親が50歳の子供の生活の面倒を見ている8050問題から外れた90歳の親が60歳の子供の生活の面倒を見ている9060状況がドキュメント番組として流れていました。

ちょっとだけ目にしてのですが90代の親が

「いよいよとなったら子供を殺すしかない。社会に申し訳ないから」

という話をしているのを聞いて腹の底から怒りを感じました。

こんなに気分が悪くなる言葉を聞くのは久しぶりだ。

などと思っていたのですが「おっとこれはテレビ局で編集されている番組だった」と気づき、一呼吸置きました。

ひきこもりの人やその家族の人はとても真面目で純真なのでこういう番組を重く受け止めすぎることが多いように思えます。

ニュースとは珍しいから放送されるわけで、ドキュメント番組とは言っても放送コードに沿って作られています。

私が番組を見ていてびっくりしたのはそういう話をしている父親と同じこたつにひきこもりの子供が向こうを向いて寝っ転がっていたことです。

インタビューしているスタッフの「なぜそこまで」というひきこもりの人に擁護的な疑問の投げかけも、父親がしゃべりやすいようにイラっとさせつつも常識的な人権派を主張する絶妙なラインなのかなぁとそこからは番組の構成について考えてしまいました。

ひきこもり脱出しました系の話もよくよく見ると突っ込みどころはたくさんあります。

ニュースは劇薬です。

テレビショッピングの放送中に小さな文字で「これは個人の感想であり、効果を保証するものではありません」とでていても効果がありそうだからと買ってしまうのが人というものです。

注意されてもそうなのですからそれがないテレビ番組はそんなこともあるんだなぁと思った方がいいでしょう。

特にひきこもりの人やその親御さんは気を付けて欲しいものです。

「この人、ひきこもり脱出してちゃんと働いているんだって」

「すごいね。で、どこで働いてるの? バイト? 正社員? 父親が社長だったりしないよね? うちも父親が社長だったらいいのにね」

このあと私と母親は不毛な口喧嘩をしたのでありました。




こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

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