2025/05/23

—ひきこもりサバイバー53 -ひきこもる前のひきこもりの人には可能性しかない-

 福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『ひきこもりの継続を強力にする小さな成功体験』というお話。

◆◆◆


「あのときあれをしてくれたらこんな風にはならなかった!」

ひきこもりの人は一度はこの言葉を親に発した経験があるのではないでしょうか?

もちろん私もあります。

親御さんの方も「あのときこうしていればひきこもることもなかったのでは?」と考えたことは何度もあると思います。

四戸先生とひきこもり家族相談会で親御さんの相談を受けていたとき私たちは何度もこの言葉を聞きました。

当然、内容は「いじめに対処していれば」から「好きな学校へ行かせていたら」と様々でしたが

「昔、ああしていれば子供は幸せになり、親にも今の悩みはなかった」

という意味では共通していました。

しかしタイムトラベルものとかタイムリープ系の時間を移動してやり直す小説を読んでいるファンタジー思考の私はこの言葉を聞くたびにこう思ってしまいます。

「人は過去には戻れないし、戻れたとしてもそれをして今より良くなる保証はないのに」

タイムトラベルものやタイムリープもの、つまりは過去に戻って悪い原因を取り除く系の小説を読んでいると過去を改変したために未来がさらに悲惨になり、それを改めるために主人公がめちゃくちゃ苦労するというのが定番です。

親が子供のためを思って過去を変えたら「ひきこもっていない」ひきこもりの人が世界中の人が恐れおののく独裁者として世界を支配しているかもしれません。

古い話ですが映画バックトゥザフューチャーは変わってしまった「今」を取り戻すためにタイムスリップするのでハッピーエンドが待っていました。

「未来は自分で作るのだ」

過去を悔やんだ後はよりよい未来のために何をするかを紙に書きましょう。

もし過去に戻れたとしても無限の可能性を持った自分がいるだけです。

無限の可能性を信じて自信満々のあなたは失敗したと自信を無くしている自分の忠告を聞き入れることは決してしないでしょう。


こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。

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