福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。
ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『小さな成功の極意』というお話。
◆◆◆
四戸智昭先生の名言です。
私はこれを保健所主催のひきこもり家族相談会で聞いたときに「さすがだなぁ」と感心してしまいました。
それは「自分が悩んでいることを言葉にしないと人には伝わらない」、「自分が何に悩んでいるのかを理解することが大切」、「その中で今一番大変だと感じていることから解決して行きましょう」というメッセージをすごくわかりやすい形で盛り込まれているからです。
これがちゃんと学問として勉強して現実の場でそれを実践している人のすごさかとため息が出ました。
そして
「自分の体験だけを頼りにやっている私と違う方向性の人だ。これなら学問的なことは全面的にやってくれるだろうから自分は直感で突っ走っていいなぁ。面白くなりそうだ!」
そんなことを考えて自由にやらせていただきました。
私は超素直なので「自分の今一番悩んでいることは何か?」を考え
親に現状を分かってもらってもらって
「いつになったら人並みになってくれるの? 私たちもいつまでも生きてないのよ!」
と言わないでもらうことと決めました。
決めたものの、実行までには半年かかりました。
「今日こそ話をしよう」と思いつつできなくて私がどんな気持ちなのかをノートに書きだしてはまごついていました。
ノートの左半分に今の気持ちや自分の希望を書き、右のページに親の言葉を記録する空白を作ってノートの枠外に「話はさえぎらず最後まで聞く」と大書しました。
そしてある障碍者雇用を推進している会社を見学に行ったとき、そこの管理者の人が「障碍者の人たちはみんなやる気に満ちています。自己通勤のための支援もしています」と自信に満々に語っていたのを聞いて、気持ちがもやもやしてイライラしたのをきっかけに、ノートを持って親との話し合いに臨みました。
三日に一回しかこれない人がいる状況でやる気に満ちていると言われるとどうしてももやもやします。
「給与がいくらか、昇給昇進があるのか」という質問をしなかった自分にイライラします。
そういうもやもやイライラがリミッターを外してくれたのでしょう。
ひきこもりの人が親にいきなり「働け」と言われて大声を出したり、暴れたりしてしまうようなものです。
話し合いは四時間にわたりました。
ひきこもりの人の親御さんはよくある朝まで説教現象を思い出してもらえればいいと思います。
私はひきこもりになる人の特徴の「超真面目」特性を持っているのでやり始めたら倒れるまで突っ走ります。
せっかくなので母親だけでなく父親も招集し、母が話す時に父が遮ろうとしたら「今はお母さんが話しているからそれが終わってから」「お母さんの話を座って聞いてないとちゃんと反論できないでしょ。話が終わるまで動くな!」「さあお母さん、話したいことは全部話していいよ。俺は怒るかもしれないけどそれは俺の気持ちだから」といった調子で何度もトイレに立つ両親に「俺、この話が終わるまで動かないから。終わるまでどっちも逃がさないから」と必死で食らいついていきました。
「死でしまったら文句も言えんぜ」
というやつです。
こうして戦々恐々とした話し合いをノート一冊分くらいやったころにはそれなりに待遇は改善され、私の両親への理解も深まりました。
両親は「あんたは何をするかわからないから怖い」と言っていましたがそういうことを言ってもらえると私も「そうなんだ」と自分だけで思い込むより私を理解できます。
家族だからこそ安心して言いすぎてしまうことも当然あります。
しかし今一番悩んでいることを解決しようと努力するのは素晴らしいことです。
とてもとても大変なことだけれどとても大切なこともあります。
あの話し合いの日々の後、「あんたが普通になってくれたら」と言われてもそこまで頭に来なくなりました。
私はその言葉が嫌だったのではなく、私の気持ちを知ってもらえていなかったこと、知ってもらおうと努力していないことが嫌だったのです。
あなたが今一番悩んでいることは何ですか?
一度、それを考えてみるだけでも見える景色は変わり、やるべき行動が見えてきます。
なぜならそれは今の自分の心に語りかける行為だからです。
こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)
<プロフィール> 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。 |
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