2021/11/07

ひきこもりサバイバー33 ―雪一つない天神と足が埋まるほど雪がある家の前―

  福岡県立大学で嗜癖行動学を研究している四戸智昭です。

ひきこもりからのサバイバー(生還者)の声に学ぶことが大切だと思い、元ひきこもりのこだまこうじさんにエッセイを書いてもらいました。随時掲載の予定です。
今回は、『雪ひとつない天神と足が埋まるほど雪がある家の前』というお話。

◆◆◆

楠の会のひきこもり当事者の気持ちを聞こうという会合は 天神で開催されました。

ほんの十人ほどの集まりでしたが、みなさんとても真剣で、私は飯塚の田舎から高速バスで一時間半かけて行ってよかったと思っています。

 私が何よりも感じたのは都会と田舎は違うということです。

 別にどちらがいいということではなくて、

「私の家の前には十センチ以上雪が積もって、とても車が出られる状況ではないのに西鉄バスで飯塚バスターミナルに出て、天神行高速バスに乗ってトンネルをくぐると、そこには雪など全くない世界が広がっている。家を一歩出て、市内を歩き回っては雪が積もっていると思っていて、もう少し進むと雪が降っているけど積もっていない世界が強く広く存在する」

 ということに感動したということです。

私は一応「ひきこもり脱出者」と言われていますが、どうにもそんな気がしないなぁというのが本音です。

それが本音なのですが「ひきこもり」ではいられなかった 「意志の弱い人間だ」という気持ちがめちゃくちゃ強いというわけでもありません。

めちゃくちゃ強いわけではありませんが 「ひきこもり脱出を目指して」 と言われると 「それは弱い人間のすることだ」 と思ってしまうようなひねくれたところはあります。

ただ、もしひきこもりの人が家の前にある雪を踏み越えて、高速バスに乗って新しい世界へ行ったらそこですごいことをしてくれそうな期待はもっています。

ひきこもり脱出は弱い人がやることと思いつつ、ひきこもれている人は、新しい世界ではすごいことができるというのはめちゃくちゃな矛盾ですが、そんな気がします。





こだまこうじ (元ひきこもり。1976年福岡県飯塚市生まれ、同市在住。)


<プロフィール>
 中学時代いじめ被害、高校で不登校に。その後、最初のひきこもり時代を経験。このとき、「キツイから精神科に連れて行って」と親に泣いて希望するも、完全に無視される。周囲から就労を強要され、専門学校へ入学。その後、就労するも就職先の社員寮で動かなくなっているところを発見され、会社は9か月でクビ。4年間の本格的なひきこもり時代に突入。
 その後、保健所の支援でひきこもりから脱出。2009年、保健師にとってまれにみる成功例として福岡県嘉穂・鞍手保健環境事務所の「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーに就任。自立できるほどの収入はないが、ひきこもり当事者家族の話を聴いて支援をすることになる。
 しかし、2020年に国や県がひきこもり当事者への就労支援を加速させることになり、「ひきこもり家族相談会」のアドバイザーとしてのお役御免となる。
 「死んで地獄に行ったら、鬼に責め苦を喰らい、極楽に行っても悟った超阿弥陀如来に解脱するまで修行させられる」ことを恐れて、今日も何とか生き延びている。