2011/05/10

人生の棚卸し

(福岡楠の会 ひきこもりの家族会 2011年5月号)

福岡県立大学大学院看護学研究科 四戸智昭

○回復の場所へ夫婦で登場することの重要性

 前回のエッセイでは、治療や回復の場所に父が登場することの重要性について紹介した。家族がひきこもりという問題を抱えているのなら、精神科や心療内科のカウンセリング、あるいは家族ミーティングのような自助グループの場所に、母(妻)だけではなく、父(夫)の登場が欠かせない。
 このことは、ひきこもりの当事者本人が治療の場所に登場するよりも、夫婦揃って治療の場所に登場することの方が優先するとまで思う。特に、ひきこもりや不登校の直接的なきっかけが、本人の疾病や障害に由来しないのなら、なおのこと家族関係の見直しが重要になる。
家族関係の見直しという作業は、母(妻)独りでできるものではなく、夫婦での登場が必要になる故、父のリーダーシップについて語った。しかし、回復の場所で、父や母が何をするのかについては、紹介していなかった。今回は、家族ミーティングという場所で、父や母が行う“人生の棚卸し”について話題をすすめていきたい。



○恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行なうということ
 アルコール依存症から回復すするための自助グループA.A.(アルコーリックス・アノニマス)は、自助グループ(当事者だけの回復のためのグループ)の原型を作ったとも言われる。

表 A.A.の回復のための12ステップ
1.   私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていたことを認めた。
2.   自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
3.   私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。
4.   恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、それを表に作った。
5.   神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質をありのままに認めた。
6.   こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
7.   私たちの短所を取り除いて下さいと、謙虚に神に求めた。
8.   私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった。
9.   その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わせをした。
10.  自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた。
11.  祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
12. これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージをアルコホーリクに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した。
 
 彼らは、ミーティングの開始冒頭、アルコール依存症から回復するための「12ステップ」という言葉を唱和する。ご存知の方もいらっしゃると思うが、対して長い文章ではないので、ここに全文を紹介したい。

この回復のための12ステップには、アルコール依存症という病気からの回復だけでなく、他の依存症問題(ギャンブルやショッピング)、あるいは、お酒を飲まないが自己中心的な人の病気(ドライ・ドランカーの病)や、人間関係の依存(共依存症)からの回復にも重要なメッセージが込められている。
紙面の都合、全文の解説をすることは、今回は割愛するが、第4番目のメッセージ「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、それを表に作った。」という言葉は、家族ミーティングに参加する参加者たちにも、とても重要なメッセージと言える。





○人生の棚卸しをするということ
 家族ミーティングの場で、あなたがすべきことは、「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行なうこと、さらにそれを表にまとめること」につきると思う。自分がどのように妻や夫に接してきたのか、あるいは息子や娘に接してきたのか。それを振り返り、自分に非があることを素直に認めることは、とても大変な作業である。
まして、その事をミーティングという場所で他者に告白するのであるから、この作業には大変な痛みが伴う。単に、“ごめんなさい”と懺悔すればよいというのではない。もし、かつて自分が家族の中で自己中心的に振舞っていたのなら「その態度を反省し、二度と同じようなことをしない。」という宣誓がこの第4番目のメッセージである。
不幸なことに、自己の振る舞いや考え方というのは、自分ではそれに非があると気が付きにくい。だから、私たちは家族ミーティングという場所で、他者の話に耳を傾けるのである。
他者の話の中に、実は自分が登場していることに気がつくようになると、あなたの“聴く耳(リスニング)”能力が着実に付いてきたとも言える。ミーティングの場所で、その事(気づいたこと)を告白することも重要である。
これが、人生の棚卸しという作業である。何度も言うが、棚卸しの作業は、懺悔の繰り返しではない。将来に向かって、私が具体的にこのように変わりたいという宣言もここに含まれる。
このように、人間を成長させてくれるチャンスが家族ミーティングには眠っている。そのチャンスを掘り起こすのは、他でもなく、あなたとあなたのパートナーの作業である。



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